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各国中央銀行を記録的な金購入に駆り立てているのは何か。そしてそれは今後も続くのか。

  • 各国中央銀行は、公的準備を分散させ、信用リスクがない普遍的資産によって流動性を確保するために金を購入しています。
  • 金が持つユニークな特性により、長期的視点を持つ機関投資家や政府にとって、金は準備資産や価値貯蔵における当然の選択肢となっています。
  • 債務と流動性の水準は高止まりする公算が大きく、金の長期見通しを下支えしています。
Head of Direct Retail

世界各国の中央銀行による2022年の金購入量は1,083トンと推定され、年間購入量として過去最多を更新しました。金の大量購入はその後も続いており、2023年上半期のネット購入量は387トンでした1

世界の金融システムと中央銀行における金の役割がどのように進化してきたかを考えれば、このトレンドは驚くべきことではありません。1971年にブレトンウッズ体制が崩壊してから2000年代初頭までの間、中央銀行は基本的に金の売り手でした。しかし、2008年の世界金融危機の余波を受け、中央銀行は買い手に転じ、それ以降、買い越しが続いています

図表1: 数十年にわたって金の売り手だった中央銀行は、2010年に買い手に転じた

Figure 1: Central Banks Switched to Net Buyers in 2010 Following Multi-Decade Role as Net Sellers

出所:ブルームバーグ・ファイナンスL.P.,ワールド ゴールド カウンシル、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ。データは1950年1月1日から2022年12月31日。過去のパフォーマンスは、将来のパフォーマンスの信頼できる指標ではありません。

金は以前にも増して、米ドル、ユーロ、日本円といった不換通貨の代替とみなされるようになっています。それには十分な理由があります。流動性、歴史的役割、デフォルトリスクがないこと、均質性、普遍性といったユニークな特性により、長期的視点を持つ機関投資家や政府にとって、金は準備資産や価値貯蔵における当然の選択肢となっています。

調査結果:中央銀行は金に熱心

金本来の性質を考えると、世界金融危機以降、中央銀行が金を購入する理由は明らかです。中央銀行にとって、金は次のような役割を果たします。

  • 米ドルに過度に集中している外貨準備の分散
  • バランスシートの強化
  • 信用リスクがない普遍的資産による流動性の確保

ワールド ゴールド カウンシルによる最近の調査結果2もこれを裏付けており、各国中央銀行は流動性、価値貯蔵、分散化といった金の特性を理由に、準備資産として金を保有していることが示されています。
 

中央銀行が金を保有する理由トップ5 「そう思う」と回答した人の割合
歴史的地位 77%
危機時における金のパフォーマンス 74%
長期的価値貯蔵/インフレヘッジ 74%
ポートフォリオの効果的な分散手段 70%
デフォルトリスクがない 68%

出所:「2023年中央銀行金準備サーベイ」、ワールド ゴールド カウンシル、2023年5月。調査方法:ワールド ゴールド カウンシルは6年連続で、YouGovとの協力により、中央銀行を対象とした調査を実施しています。調査は2023年2月7日~4月7日にかけて実施され、調査を依頼した各国中央銀行の38%に当たる59行から有効な回答を得ました(昨年の57行からわずかに増加)。レポートに含まれるデータは、全体の数値に加え、先進国とEMDE(IMFの定義による新興市場国および発展途上国)の内訳も示されています。

もう1つの長所:地政学的ストレスの中での金の匿名性

ワールド ゴールド カウンシルの調査では、新興国の61%が、「地政学的な分散手段として機能する」ことを重視するとしたのに対し、先進国は45%でした。地政学的不確実性が高まる中、金準備の保有に対するこのような見解の相違は拡大していますが、その背景には、一部の政府による金購入を促すもう1つの要因が働いています。匿名性です。

近年、SWIFT(国際銀行間通信協会)決済システムは、2015年のイラン制裁や2022年のロシア制裁の手段として利用されており、この方法を「武器化」とする見方もあります。

もし政府が国際的な制裁措置を現実の脅威だと認識するならば、米ドル資産から金などの匿名資産への切り替えは極めて魅力的に映るはずです。たとえば2022年のロシアのように、複数の基軸通貨国による多国間制裁が行われるシナリオではなおさらです。

中央銀行の債務と流動性とともに上昇する金価格

各国の中央銀行は、過去25年間にバランスシートを劇的に拡大し、世界の流動性を飛躍的に高めてきました。このような債務と流動性の水準は高止まりする公算が大きく、金の長期的な需要と価格見通しを下支えしています。

21世紀に入ってからの債務の爆発的増加は、流動性の増大や金融緩和政策と直接結びついています。実際に、米国、EU、英国、日本の中央銀行のバランスシートは、2000年以降に2.5兆ドルから22.0兆ドルへ、10倍近くに膨れ上がっています3

図表2:世界の流動性と債務水準は、右肩上がりに上昇

Figure 2: Global Liquidity and Debt Levels Continue to Increase

出所:ブルームバーグ・ファイナンスL.P., ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ。データは1994年12月31日から2023年8月31日。過去のパフォーマンスは、将来のパフォーマンスの信頼できる指標ではありません。

世界的な流動性と債務の急増に伴い、金価格は586%超上昇しました4。これは、中央銀行の債務と流動性の増大から生じる広範で長期的なリスクに対処するために、個人投資家や機関投資家が金にシフトしたことも一因になっています。

新興国の中央銀行は、将来的に金購入額を引き上げる可能性がある

近年、中国やロシアを中心とする新興国は、 金購入の大部分を占めています。それでも、金保有総額でも、外貨準備全体に占める金の割合でも、新興国の金準備は、先進国を依然として大幅に下回っています。

対照的に、先進国は世界の公的部門による金保有の66%を占め、外貨準備全体の58%を金が占めています(図表3)。

新興国およびフロンティア市場の中央銀行が保有する金は、世界全体の34%を占め、これらの国の外貨準備に占める割合はわずか19%と、先進国の3分の1にとどまります。

この差は、新興国が金準備を今後さらに蓄積する可能性があることと、現在、米ドルのような不換通貨が大部分を占めている国がポジションの分散を図る上で金が重要な役割を果たすことを示しています。

中央銀行は今後も金を購入し続けるだろう

現在、経済的リスクや地政学的リスクが高まっていることを考えると、外貨準備の分散、バランスシートの改善、信用リスクのない資産による流動性の確保といった、中央銀行による金購入の原動力となっている要因が変わることはないと思われます。さらに、新興国の中央銀行は先進国と比べて、金への配分が低いという現状もあります。

従って、中央銀行は、今後も金の買い手としての役割を継続すると予想されます。このことは、従来の消費者や投資家からの需要以上に、世界の金需要の見通しを下支えするだけでなく、金の長期的な価格見通しを下支えする要因の多様化につながるとみられます。

中央銀行の金購入によってもたらされる投資機会を利用しようと考える投資家にとって、金へアクセスするには、金地金から、ミューチュアルファンドや先物取引といった金融商品に至るまで、さまざまな方法があります。その中で、金を裏付けとするETFは、柔軟性、透明性、金市場へのアクセスのしやすさといった特徴を併せ持つユニークな特性があり、同時にETF市場の中でもコスト効率の高い流動性という利点を提供しています。