金はコモディティとして分類されることが多いものの、他のコモディティやオルタナティブ資産との違いは際立っており、より効率的なリスク分散効果をもたらすという、おそらくこの利点が、金を他の資産と明確に区別し、金という独立した資産として取り扱うべき根拠と言えるでしょう。
ポートフォリオの構築は、株式と債券を60/40の比率で配分する伝統的な「バランス型」ポートフォリオから進化し、投資家は現在、相関のないリターンとリスク分散が期待できる非伝統的資産のエクスポージャーを増やす傾向を強めています。金は多くの伝統的資産クラスとの相関が歴史的に低いため、金を組入れることでさまざまな市場サイクル全体を通じて、リスク特性の異なる幅広いポートフォリオにおいて、リスク・リターン特性の改善につながると考えられます。
コモディティ全般に投資するモチベーションとして⼀般的に挙げられるのは、インフレに対する防衛です。コモディティは歴史的に優れた分散効果を提供し、総じて、多様なインフレ環境でプラスの平均リターンを創出しているからです。しかし、すべてのコモディティがあらゆる景気サイクルを通じて同様のパフォーマンスを⽰しているわけではなく、コモディティがインフレを相殺できるか否かはやや曖昧で、インフレの状況に左右されます。
足元の市場に目を向けると、連邦準備制度 (FRB) が 9 月に金利を 50 ベーシスポイント の5.0% に引き下げ開始した緩和サイクルを継続するため、2025 年には金とコモディティに追い風が吹く可能性があります1。世界的に米ドルで価格で設定されている金を含め、2025 年の潜在的な米ドル安がコモディティをサポートする可能性があります。FRBや他の中央銀行がソフトランディングを支えるために利下げを続ける中、マクロ経済の不確実性は高い水準で続くと予想されています。FRBが他の中央銀行に比べて利下げに遅れをとった場合、米ドルは2024年の大半と同様に横ばい取引が続く可能性があります。しかし、FRBが他の中央銀行に先駆けて金利を引き下げれば、米ドルの需要は減少する可能性が高いでしょう。金は歴史的に見て、米ドルが弱気相場に入る時にブロード・コモディティ指数のバスケットをアウトパフォームしており、過去のデータに基づくと、直近の米ドル強気相場は金のプラス材料かもしれません2。
特筆すべきは⼀部のコモディティは、例えば、原油、銅、そして銀でさえ、歴史的に⾒て⾦よりも景気に影響されやすく、市場や景気のサイクルとの連動性が⾼い傾向にあります。その理由は、これらのコモディティへの需要は景気循環に沿った消費の影響を受けやすいからです。すなわち、グローバル株式の上昇時にはそれを上回る可能性もあれば、株価の下落時にはより⼤幅に下落する場合もあります。
当社は投資家との意見交換の中で、金を他のコモディティ、流動性のあるオルタナティブ資産、通貨と比較する方法について頻繁に質問を受けます。多くの投資家は、原油、不動産、通貨、プライベート・エクイティといった他の多種多様な資産クラスとともに、金をコモディティとして分類しており、金のエクスポージャーを増やために複数のコモディティで構成されるブロード・コモディティ指数を利用する投資家もいます、しかし、金は他のコモディティやオルタナティブ資産とは異なる動きを示すことが多く、多くの資産クラスよりも効率的なリスク分散効果をもたらすという利点が、金が他の資産と明確に区別され、金という独自の資産として取り扱われるべき根拠と言えるでしょう。
投資家は⼀般に、広範なコモディティ指数やパッシブ戦略を⽤いてコモディティ資産クラスにアクセスします。しかし、⾦単体への資産配分を意図する場合において、このアプローチでは代⽤することができません。実際、よく知られている3種類のブロード・コモディティ指数を⾒ると、指数における⾦の組⼊⽐率は概ね4〜14%3となっています。この⽐率ではポートフォリオの⾦のエクスポージャーは不⼗分と⾔わざるを得ず、⾦に投資する恩恵を⼗分に享受できない可能性があります。実際には、ブロード・コモディティ指数を⽤いて⾦のエクスポージャーを保有することで、投資家はリスク分散化 やインフレヘッジという⾦の利点を享受することができますが、⾦のエクスポージャーが相対的に低いため、⼀部の潜在的な利点を受けられないかもしれません。
主要なブロード・コモディティ指数と比較すると、金は歴史的にアウトパフォームしている一方、下落局面における下げ幅は相対的に小幅にとどまっています。
金のリスク分散効果について取り上げると、その他の「流動性のあるオルタナティブ資産」も、日次流動性があり、株式や債券との相関が低いため、分散投資の手段として頻繁に利用されていると指摘されることも多々あります。しかし、全般的には、不動産投資信託(REIT)、流動性のあるヘッジファンド戦略、プライベート・エクイティ代替資産(代理投資ビークル)といった他の多くの資産よりも、金の方が歴史的に見て相関は低く、効率的な分散効果を示してきました。
2008年以降、金と株式の相関が低下傾向にある一方で、他のオルタナティブ資産は株式との相関関係が強まっていることから、投資家のポートフォリオに対するリスク分散効果は薄れている可能性があります。
通貨も投資家がボラティリティやインフレに対処する1つ方法です。テクノロジーの進化により、現在ではビットコインなどのデジタル通貨も金に代わる資産として投資家の検討対象となっています。しかし、「ビットコインは金の代替にはなり得ない」というのが当社の見解です。現に、ビットコインのヒストリカル・データは極めて限られている上、ボラティリティは極端に高く、投機的な性質を持っているため、金のように資産を効果的に移転し保全する機能はまだ期待できません。さらに、大半の中央銀行や金融機関はビットコインのような暗号通貨をまだ交換手段として受け入れていない点も、ビットコインが金に比べて見劣りする理由と言えます。
リスク分散効果とリスク調整後リターンに基づくと、 特に市場下落局面において、ビットコインは下記のグラフに示す通り、これまでの実績に基づくと金に匹敵するような利点は見当たりません。
市場におけるイノベーションは避けられない流れであり、歓迎すべきことではあるものの、特にコモディティ、他のオルタナティブ資産、ビットコインなどの暗号通貨と比べた場合、金が資産価値の保全、リスク分散効果や流動性の提供に優れていることは歴史や過去のデータが証明しています。
現在のように市場やリスクが変化しやすい点を踏まえると、おそらく現代のポートフォリオにおける金の役割は広がっているでしょう。リスク調整後リターンの最大化のために投資家がこれまで依存してきた債券やその他既知の分散手段の中で、金をどのように利用するのか、どのような利点があるのかについて、改めて見直す必要があると思われます。
投資環境の進化に伴い、SPDRの⾦戦略チームは市場動向や投資家の需要を引き続きモニターしています。直近のコメントはこちらからご覧いただけます。