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Uncommon Sense

決算は投資家センチメントと利益率に悪影響を及ぼす可能性がある

「株式市場は、短期的には人気投票の場にすぎないが、長期的に見れば価値の計測器として機能する」

— Benjamin Graham

Chief Investment Strategist

複数の大手銀行が決算発表を行う10月13日の金曜日、第3四半期の決算シーズンが不吉な幕開けを迎えます。第1四半期と第2四半期の業績が、極めて低水準にあった予想を大きく上回ったため、投資家は企業業績がようやく底打ちしたのではないかと期待しています。実際のところ、アナリストは2023年下半期と2024年の企業業績に対して、楽観的な見方を強めています。楽観的過ぎとも言えるほどです。もし、企業が高まる市場の期待に応えることができなければ、投資家は失望し、株価は下落し、今年の強気相場を脅かすことになりかねません。

強気相場のカギを握る投資家センチメント 

決算内容が予想を上回ったことが1~7月の株高を後押ししました。前年同期比の利益成長は3四半期連続でマイナスと、業績後退となりましたが、利益が上振れした企業の割合は予想を大きく上回り、その上振れ幅も通常より大幅でした。

企業業績が予想をはるかに上回った最大の理由は、アナリストが2023年上半期に米国経済の景気後退入りを予想していたためですが、今のところ起こっていません。企業が悲観的な業績予想を楽々と上回ったため、ソフトランディングは依然としてあり得るという、投資家の期待値は上昇しました。

ところが、アナリストの業績予想が上半期に低過ぎたとしたら、今は高過ぎる可能性があります。

市場調査会社のファクトセットによると、2023年の企業利益は前年比1.1%増となる見通しです。第1四半期は前年同期比2%減、第2四半期は同4.1%減でした。第3四半期は若干のプラス成長が見込まれていますが、第4四半期は8.3%増という驚異的な伸びが予想されています。2024年については、さらに大幅な12.1%の増益が予想されています1

株式市場は短期的に人気投票の場であり、センチメントによって動きます。上半期に景気後退入りするという予想は、明らかに悲観的過ぎました。そして、景気後退が表面化しなかったことを受けて株価は上昇しました。

今はどうでしょう。現時点でのアナリストによる2023年下半期と2024年の業績予想は、またしても明らかにソフトランディングを示唆しています。

これはおそらく、楽観的過ぎます。投資家は自分自身に問いかける必要があります。景気後退がまだ始まってもいないのに、企業収益が底を打つことなど、あり得るのでしょうか。

投資家のセンチメントは気まぐれです。高く引き上げられた業績予想を、もし今期、企業が上回ることができなければ、センチメントは悪化して市場を動揺させ、上昇相場はリスクにさらされる可能性があります。

では、長期的な価値の計測器としての、市場の見通しはどうでしょうか。

長期的には利益率が重要になる

投資調査会社のエンピリカル・リサーチ・パートナーズによると、企業の利益率は2000年の7%から2021年初めには13%超へ、ほぼ2倍に拡大しています。その要因は、ハイテク業界やインタラクティブメディア業界の収益性、金利や税率の低下、グローバル化に伴う製造業の労働コストや資本集約度の低下です。現時点において、S&P500指数構成企業の第3四半期の純利益率は11.7%と、引き続き健全な水準が見込まれており、これは第2四半期の実績や過去5年平均のいずれも上回っています2

しかし、この驚異的な利益率の拡大が、繰り返されることはあり得るのでしょうか。

前年同期比での利益成長率は、3四半期連続で低下しています。その結果、S&P500指数を年初来で押し上げているのは、主に株価収益率(PER)の上昇です。つまり、投資家は1ドルの利益に対して、これまでより高い株価を支払っているということです。歴史的に見ると、こうしたPERの拡大が起こる時、利益は2桁のペースで増加していました。まさにその通りに、アナリストは2024年の利益成長率を12.1%と予想しています3。しかし、これはこれまでの下支えが弱まり、利益率が既に頭打ちした可能性が高いという、足元のコンセンサスと矛盾しています。

例えば、エンピリカル・リサーチ・パートナーズによれば、過去20年間にわたる利益率上昇の大部分は、金利と税率の低下によるものでした。2010年以降に金利の低下は、利益率を1%ポイント以上押し上げました。もし米国10年債利回りが4%以上を維持した場合、今後5年間で利益率は0.5%ポイント以上、低下すると予想されます4

さらに、2017年に成立した減税・雇用法の下で税率が低下し、過去13年間にタックスシェルターの利用が拡大したことにより、企業の利益率は1%ポイント超、上昇しました。グローバル企業が海外で得た利益の大半は、法人税率が1桁台の租税回避国(タックスヘイブン)で計上されています。現在および今後予想される米国の巨額の財政赤字を踏まえると、法人税の実効税率がさらに引き下げられる公算は小さいと言えます。実際、11セクターの中で実効税率が最も低かったハイテクセクターの法人税率は、2018年以降で約3%ポイント上昇しています5

グローバル化は、製造業の労働コストや資本集約度の低下にも貢献しました。エンピリカル・リサーチ・パートナーズによると、製造業は米国のGDPのわずか12%しか占めていませんが、企業収益の約40%を占めています。労働コストの低下、資本集約度の低下、そしてロボット工学などの技術の進歩という複合的要因により、企業の利益率は2010年以降1%ポイント近く押し上げられました6。しかし、脱グローバル化やフレンドショアリングの流れにより、これまでに上昇してきた利益率のすべて、あるいは一部が今後数年間で巻き戻される可能性があります。

利益率の見通しにおいて依然として強気な要素は、テクノロジーの進歩だけです。2010年以降、ハイテク業界とインタラクティブメディア業界は、市場全体の利益率上昇の大半を担ってきました。両業界の利益率が8%から23%に上昇した一方で、これらの業界を除いた市場全体の利益率は6%から9%への上昇にとどまっています7。そして、ハイテク業界のリーダーシップは今後も続くとみられます。

21世紀に入って企業の利益率は2倍近くに上昇してきましたが、今後10年間で、この上昇が再び繰り返されることはなさそうです。金利コストの上昇、法人税の実効税率の上昇、脱グローバル化といった要素により、利益率の上昇は少なくとも抑制される可能性が高いと思われます。

2つの市場ドライバーは何を物語っているのか

短期的な市場のボラティリティはしばしば、投資家センチメントの変化によって引き起こされます。前年同期比の利益成長率は3四半期連続で低下していますが、投資家は2023年に株価を押し上げ続けています。すべては、上半期の決算内容が恐れていたよりもはるかに好調だったからです。

第3四半期の決算シーズンが始まり、投資家センチメントは劇的に変化しています。アナリストによる年内と2024年の利益予想は、経済のソフトランディングを見込んでいます。悲観論は楽観論に変わりました。そして、こうしたセンチメントの大きな変化に伴い、投資家が失望し、株価が下落するリスクは高まっています。

長期的視点を持つ投資家は、投資家センチメントの短期的な変化など気にかけません。結局のところ、長期的な株式市場のパフォーマンスを決定づけるのはキャッシュフロー、収益、配当なのです。しかし、金利、法人税率、グローバル化といった要因が、利益率への追い風から逆風に転じるにつれて、ここにも懸念材料があるかもしれません。

こうした市場ダイナミクスの変化により、利益率の拡大を維持する負担が人工知能(AI)に重くのしかかっています。AIに企業の収益性を押し上げる能力があるかどうかは分かりませんが、少なくとも金利上昇、増税、脱グローバル化による利益率への負の影響の一部を打ち消してくれるはずです。

おそらく、利益率が高水準を維持することは期待できるのかもしれません。それでも、驚異的な利益率の拡大が株式市場の平均を上回るパフォーマンスに寄与した可能性が高いことを考えると、企業の長期的な収益性を重視する投資家は、将来の株式市場の上昇に対する期待値を引き下げる必要があるかもしれません。

株式市場は、センチメントに左右される投票機として見ることも、ファンダメンタルズ主導の計測器として見ることもできますが、いずれにしても前途に困難が待ち受けていることが示唆されています。

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