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Bond Compass

最近のハイイールド市場について

William Ahmuty(SPDR債券グループの責任者)は債券ベータソリューションのシニア・ポートフォリオ・マネージャーのBradley J. Sullivan, CFA, に直近のハイイールド市場について話を聞きました。Sullivan 氏はコーポレート・クレジットのシステマティック投資チームを統括しています。同チームは、ETF、合同運用ファンド、個別管理口座(SMA)など様々な投資商品を対象に、指数および定量分析に基づく戦略を運用しています。

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Bradley Sullivan profile picture
Credit Portfolio Manager
William Ahmuty profile picture
Head of SPDR ETF Fixed Income

2023年のハイイールド市場の総括と2024年の見通しについてお聞かせ下さい。

2023年にはインフレ、金利、原油やコモディティ、クレジットクオリティ、株式が次々とピークに達しました。考えてみれば、株式はまだピークに達していないかもしれません。いずれにせよ、ここでの話題はクレジットになります。2023年のハイイールド市場全体で、クレジットクオリティはこれまでになく高く、マクロ要因の大きな変動にもかかわらず、市場はかなり底堅く推移しました。

ごく最近になり、クオリティに陰りが見え始めました。非常に多くの銘柄がライジングスターになったこと、すなわち投資適格債に移行したことが主因です。その多くはFord、Apache、Occidental Petroleum、Sprint、Netflixといった有名企業です。ハイイールド市場は、現在も続くウクライナの地政学リスク、中東における紛争の勃発、米自動車労組のスト、小規模な地銀の危機に端を発した金融セクターの混乱など、数多くの広範なマクロ・イベントを乗り越えてきました。

米連邦準備制度理事会(FRB)が一貫してインフレと闘う姿勢を明確に表明してきたことが、足元の市場にプラスに働いています。金利の大幅な上昇は、企業業績よりも大きな影響を債券価格に及ぼしました。ハイイールド債は、国債利回りの上昇(米国10年国債利回りは過去2年間で330ベーシスポイント[bp]上昇し、2023年10月に5%でピークをつけました)に連れて値を下げ、多くの発行体が営業キャッシュフローの一部を用い、額面を大幅に下回る価格で社債を買い戻すことができました(2021年9月後半には、ブルームバーグ・ハイイールド指数の平均ドル価格は105ドルを超えていましたが、それからちょうど1年後に85ドルを割り込みました。その後2024年初めまでに、平均価格は90ドル台前半まで上昇しました)。

景気減速が懸念されているにもかかわらず、通常リセッション前にはみられない、債券市場の縮小という特徴が見られます。信じられないかもしれませんが、2024年3月のブルームバーグ・ハイイールド社債指数の額面残高は実際に、9年前の2015年3月の水準を下回っています。市場過熱の兆候やリセッションの予兆である過剰なレバレッジや企業債務の増加ペース加速を予想する向きもあるかもしれませんが、現在そうした兆候は見られません。これは、過去の金利レジーム、特に経済活動の停止を乗り切るためにコロナ禍の市場で手元資金の積み上げを目的につなぎ債務が大量に発行されていた時代とは対照的です。

この市場の底堅さは、2024年いっぱい続くとみています。旺盛な消費需要と慎重なバランスシート管理に支えられ、企業のファンダメンタルズは引き続き健全なようです。新規発行が上向き、「償還の壁」をめぐる懸念が和らいでいることも明るい材料です。新規発行は、質の高い債務者の割合が増えています。とは言え、質の低い債務者も発行が可能です。デットキャピタル市場における健全性の尺度の1つに、リスク・スペクトラム全体での債務の価格形成能力があげられます。地政学リスクのさらなる激化と商業用不動産市場の悪化が懸念されますが、おそらく市場の関心は、パウエルFRB議長がこのままソフトランディングを実現できるか否かから、米大統領選の影響に移ると見られます。

テクニカルな観点から、ハイイールド市場をどう見ていますか?

テクニカルな観点から見ると、現在のハイイールド市場はかなり退屈です。大型発行体の多くが投資適格に格上げされたため、取引対象となる大型銘柄が減っているためです。BB格のスプレッドは、過去最低水準近くまでタイト化しています。CCC格発行体の顔ぶれに変りはありません。業界の状況が悪化して信用力に不安のある企業が増えている様子も、新たなトレンドが台頭している兆候もありません。興味深いのは、ヘルスケアやテレコムサービスのようにディフェンシブなセクターの銘柄が、ストレスにさらされている点です。通常こうした傾向はサイクル後半に観察されます。

最近の発行は、両方向の流動性を生み出しています。これは市場がビッドかアスクのいずれか一方に傾き、中間がほとんどなかった2022年とは対照的です。繰延需要は多少ありますが、依然として機動的に発行が行われており、市場が2022年より均衡していることを示しています。

公開市場であるハイイールド債市場と比較して、プライベートデット市場とレバレッジドローン市場の間で発行がどの程度選好されているかを注視しています。知名度が高く、発行経験が豊かな発行体は、相対的にタイトなクレジット・スプレッドでの債務発行が可能です。プライベートエクイティ企業、ローン担保証券(CLO)、プライベート・クレジット・ファンド、伝統的なハイイールド債の買い手の、いずれが主体であるかにかかわらず、まだ投資に回されていない待機資金は潤沢にあります。プライベート・クレジットの成長予想は、今後3~5年で、企業が総じてレバレッジを再拡大する可能性も示唆しています。

ハイイールド債ポートフォリオのクレジットリスク分析に、どのようなアプローチを採用していますか?特に注目している指標はありますか?

当社はクレジットリスクの評価に際して、投資方針に鑑み主に3つの指標(いずれも証券レベル)に注目します。最初に証券の信用格付けを見て、それから2つの市場ファクター、スプレッドと利回りを調べます。これにより、当社はクレジットリスクに対して定性的かつ定量的なアプローチを取ることができます。

信用格付けには、全米で認知されている統計的格付け機関(NRSRO)の格付けを使用します。NRSROは独自の定量的・定性的アプローチによって各発行体の財務状況と信用力を測定しますが、信用格付けには共通する懸念要因が2つあります。第一に、信用格付けは企業が公表した財務データに依拠しているため、市場での最新のイベントを十分に捕捉できない可能性があること。第二に、定性分析には人の判断が入るため、格付けに一定のバイアスがかかる可能性があること、が懸念されます。

クレジット・スプレッドは市場が認識する発行体のクレジットリスクをリアルタイムで反映しますが、限界もあります。特に満期までの期間が非常に短い債券の場合、スプレッドは市場の短期的なディスロケーションに影響される可能性があるからです。また、スプレッドの算出に使用する参照米国債についても、やや一貫性に欠ける面があります。

通常、利回りは、ハイイールド債のコールプロテクションを反映するため、最低利回りに基づいて算出します。現在ほとんどの債券が額面を下回っている点を踏まえ、当社は長期債務が「現在」になる会計処理を考慮するように、この計算を調整しています。ほとんどの発行体は返済の主な源泉として、債務の借り換えに依存しています。通常、監査人は企業が流動負債を向こう12ヵ月以内に返済できない場合、適正意見を表明しません。リサーチ・アナリストは、この計算の調整に基づいて直接利回りを、時おり30bp~50bpのレンジで引き上げてきました。

ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(SSGA)のハイイールド戦略は、複数の異なる指数エクスポージャーを提供しています。それぞれどのような特性があり、どのようなタイプの投資家からの需要が見込まれるのでしょうか。

当社のハイイールド運用ケイパビリティは、当社のプロダクト、運用戦略とともに成長してきました。新たな資産クラスに投資する際にほとんどの投資家がそうするように、初期の戦略では格付けが上位で、流動性が高く、デュレーションの短い銘柄を対象としました。そのため、特定の投資リスク(クレジットリスク、流動性リスク、金利リスク)はコントロールされていました。当初のハイイールド戦略で対象にしたのはBB格およびB格の発行体です。ハイイールド市場の規模と取引高がともに成長するのに連れ、流動性がより高く、デュレーションがより短い戦略を追加しました。ハイイールド投資のリスク調整後リターンは魅力的なことから、投資家はより幅広い市場エクスポージャーとカスタマイズされたポートフォリオを求めるようになりました。

2021年に、米ドル建て新興国社債や非米ドル建て、非投資適格債を含むグローバル・ハイイールド戦略を開始しました。昨年は、当社初のハイイールド・システマティック・クレジット戦略、エンハンスト・ハイイールド戦略の運用を開始しました。同戦略ではバリュエーションと価格モメンタムのファクターに基づき、ボトムアップで銘柄の組入比率を決定します。

当社がこうしたカスタマイズされたクオンツ戦略を運用できるようになったのは、電子取引プラットフォームの採用や、ポートフォリオ取引またはバスケット取引といった広範な取引プロトコルなどの市場構造の進化のおかげです。

当社は、市場における確固たる基盤と30年の経験をもとに、お客様それぞれの投資ニーズに合わせた投資戦略を構築しています。

ハイイールド市場の成長と債券市場の変化は、ETFおよび当社のハイイールドETFにどのように反映されていますか?

当社には現在3つのハイイールド社債ETF、SPDR®ブルームバーグ・ハイ・イールド債券ETF(JNK)SPDR® ブルームバーグ短期ハイ・イールド債券ETF(SJNK)SPDR®ポートフォリオ・ハイ・イールド債ETF(SPHY)があり、それぞれ特性と目的が異なっています。

まずJNKについて説明します。と言うのもこのファンドの成功は、市場の成長と変化と直接関係しているからです。先ほど当社の最初の戦略はBB格とB格の債券が対象だったと述べました。これは限られた市場のために設計された戦略です。ハイイールド市場が成長し、技術が進歩し、また新たな取引プロトコルによって効率性が向上するのに伴い、当社は流動性が非常に高い、指数連動型ハイイールド戦略の運用に移行しました。極めて制約が少ない市場で最も流動性の高い債券への投資を目指すJNKは戦術的取引ツールとして、マルチセクター・ポートフォリオにおける資産配分手段としても利用可能です(歴史的には、最も流動性が高いハイイールド債のスプレッドは、ハイイールド市場全体に対してプレミアムで取引されています)。当社はまた、JNKの価格トレンドとプレミアムを、電子取引プラットフォームやポートフォリオ取引における値付け業務の指針とし、また機関投資家の資金フローに関する取引コスト分析(TCA)に基づいて顧客を導くために使用しています。当社は、JNK 投資家が取引において、費用対効果の達成と維持に重点を置いています。

SJNKは、ハイイールド市場でデュレーションがより短い銘柄を対象にしており、JNKの派生商品と言えます。ポートフォリオのデュレーションを制限することにより、金利変動の影響を押さえつつ、流動性の維持が可能なETFを構築しました。ハイイールド市場におけるクレジットの変化を捕捉しつつ、デュレーション・リスクの抑制に関心のある投資家に適した戦略です。SJNKはまた、投資適格未満の発行体を対象とする変動金利ETFの一部をアウトパフォームしています。

SPHYは、長期的にハイイールド市場に幅広くエクスポージャーを取ることを目的としたコアとなるバイ・アンド・ホールド型ソリューションです。SPHYを保有することで、長期の投資期間にわたってオフ・ザ・ラン債から得られる流動性プレミアムを収益化できます。

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