金の価格サイクルとボラティリティを米国株式と比較・分析すれば、2024年に史上最高値を更新した金にまだ上昇余地があるかどうかを判断するのに役立ちます。
金は2024年に史上最高値を更新したことから、2025年の金市場見通しに対して慎重な見方をする投資家もいます。もう金に投資するには遅過ぎるのでしょうか?
重要なこととして、金には以下の特性があることから、ポートフォリオで長期的に重要な役割を担える戦略的な資産であると考えています。
とはいえ、市場ではレジームのシフトが時折起こるため、金はそうした局面で潜在的なアルファの源泉に加え、テールリスク・ヘッジの役目も果たします。
2024~2025年はおそらくそうした環境にあると思われ、とりわけ数年にわたるグローバルの金ETFの流出サイクルが流入に転じたのであれば、なおさらそう言えるでしょう。
金の強気相場は通常、平均して2年から3年続きます1。
当社は1985年以降の金のスポット価格の年間対数正規リターンを分析しました。まず暦年ベースで年間の金市場のリターンが初めて15%を超えた年(T)のデータを捕捉しました2。当社のデータセットで該当したのは1986年、1993年、2002年、2005年、2009年、2019年の6回です。それから、翌年(T+1、1987年、1994年、2003年、2006年、2010年、2020年)の価格変化に注目しました。データによると、T年の平均金価格は18.4%、T+1年の中央値は17.8%となっています3。
興味深いのは、T+1年のリターン中央値がT年のリターンを4.3%ポイント上回っていることです。実際、T+1年の金のリターンが15%を下回った例は1994年の1回のみで、この年、金のリターンは-1.9%と小幅マイナスとなりました4。
結論: 過去40年間、金価格は年間上昇率が15%を超えると、その翌年も平均15%超値上がりしています(図表 1)5 注: 2024年の金の年間対数正規リターンは24.1%、単純リターンは27.2%、実質リターンは21.4%でした6。
図表1:金のスポット価格の上昇率が15%を超えた年(T)と翌年の年間対数正規リターン
年 | T年の金のスポット価格の対数正規リターン(%) | T+1年の金のスポット価格の対数正規リターン(%) |
---|---|---|
1986-1987 | 17.40% | 21.90% |
1993-1994 | 15.50% | -1.90% |
2002-2003 | 22.10% | 17.70% |
2005-2006 | 16.50% | 20.80% |
2009-2010 | 21.80% | 25.90% |
2019-2020 | 16.80% | 22.40% |
平均値 | 18.40% | 17.80% |
中央値 | 17.10% | 21.40% |
出所:ブルームバーグ・ファイナンスL.P.,ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2024年12月31日。過去のパフォーマンスは将来のパフォーマンスの信頼できる指標ではありません。
このヒストリカル分析は典型的な金の投資サイクルの特性を証明しています。金地金価格の上昇は、たいていの場合、金の総需要カーブの変化によるものです。需給不均衡が解消するには、実物資産であれ金融商品であれ、通常、市場が反応するまで時間がかかります。
実物資産面では、新規鉱山からの供給におけるラグ、金のリサイクル活動の反応の鈍さ、金価格上昇に対する金の消費者の緩慢な反応などが挙げられます。金融資産面では、通常、マクロのトレンドの盛衰は週単位あるいは月単位ではなく、年単位で変化します。投資家フローのローテーションへの順応も時間がかかります。
そのため、米国株式と金がいずれも好調だった2024年に続く2025年初頭の市場は特に興味深いものとなっています。実際、米株式市場のバリュエーションが記録的水準にある点が、当社が2025年に金保有を選好する重要な戦術的理由です。S&P500株価指数は2023年下半期以降調整しておらず7、金は依然として相対的に割安なポートフォリオ・ヘッジ手段です。2024年に株式と金の価格が共に大幅に上昇したことから、S&P500株価指数/金価格比率は依然としてパンデミック前の20年平均である2.1倍を上回る水準にあります8。
トランプ政権が貿易・財政政策を変更する意向を示していること、加えて現在の地政学リスクを踏まえると、金は「不確実性」に対するヘッジ手段に適していると思われます。また2025年はマクロのボラティリティ低下テーマが揺らぎそうなことから、金のオーバーレイに有利に働く可能性があります。
過去40年間の市場ボラティリティのデータを見ると、金価格は米大型株の価格に比べて1.3ポイントほどボラティリティが低くなっています9。しかし歴史的に見ると、金は金融危機が波及し市場がストレスにさらされている時期に最も輝きを放っています。月次データによると1985年以降に26回あった米株式のボラティリティ・ショック(実績ボラティリティが30%を超えた場合と定義)において10(図表 2)、金価格のボラティリティは株式のボラティリティを22ポイント下回っています11。
たとえば最近では、2020年のパンデミックや2022年のロシアによるウクライナ侵攻などに伴い金融市場の不確実性が著しく高まった局面で、金は「低ボラティリティ」資産の役目を果たしました。こうしたイベントはいつ起きるか分からないため、今年ボラティリティが同様に大幅上昇することはないとみていますが、足元の不確実性の高まりは、おそらくボラティリティ上昇につながるでしょう。そしてこれは、2025年に金を戦術的ならびに戦略的な資産としてポートフォリオに組み入れることが妥当であることを示しています。