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金ETFへの流入が2025年の金価格を最高値に押し上げる可能性があるだろうか?

数年にわたり続いた金ETFの解約サイクルが反転したことは、金市場にとって強気材料であり、1オンスあたり3,100ドルという2025年の当社の強気シナリオの目標達成に寄与する可能性があります。

Aakash Doshi profile picture
Head of Gold Strategy

金の強気市場と金ETFへの大量流入

過去20年の間にみられた金の強気相場(2005~2007年、2009~2012年、2019~2020年)では、いずれも金ETFへの大量の資金流入がありました(1ヵ月あたり平均約30トン)1。一方、2024年に金価格が27%上昇したにもかかわらず、金ETFは年初に見られた解約を主因として資金流出となりました2

当社は、2025年には金ETFへの資金流入が大幅に増加する余地があります。

中央銀行からの記録的な金需要やコロナ禍後に中国の消費者による金購入が回復したことが、2021年以降のETFによる現物在庫の削減を吸収する役目を果たしました3。ただ、2020年後半から2024年半ばまで続いた金ETFからの資金流出が、2025年にさほど大幅でなくとも流入に転じた場合、需要ショックからファンダメンタルズのバランスは引き締まり、金価格の上昇につながる可能性もあります。 

2024年の金ETFからの資金流出は強気シフトを覆い隠しているのか?

米実質金利や米連邦準備制度理事会(FRB)のタカ派的な姿勢がピークをつけ、フィアット通貨の代替資産である金への需要が高まり続ける限り、グローバルの金ETFにおける金の保有高が回復する余地が十分にあると見ています。

また2025年にボラティリティ低減のテーマが弱まるにつれ、投資家によるテールヘッジ目的の金需要も高まりそうです。さらに一歩離れて見ると、世界の金ETFの保有高は、米大統領選後に売り圧力にさらされたものの、既に6月から12月末にかけて63トンの増加に転じています。特に注目すべきことは、2024年6月~10月末までに100トン近く流入しており、グローバルの金ETFの5ヵ月連続購入は2020年以降で最長です。ただグローバルの金ETFの保有高は、2024年11月に26トン超、12月に10トン近く減少しました4。 

とはいえ、これは通常の季節的傾向であり、あまり深読みしない方がよいでしょう。金ETFの年末の資金フローの動きは、強気相場中であっても歴史的に見て流出が多く、特に米大統領選の年にはその傾向が強まります。実際、2016年と2020年の11月から12月末にかけては、グローバルの金ETFはそれぞれ約220トン、125トンの流出超となりました5。2024年終盤の金ETFの流出は相対的に小幅にとどまると見られます。

図表1:グローバル金ETFの月次フローおよびトレンド(トン)

gold flows figure 1

金ETFの投資家が世界の需給のバランスを取っていたのか?

2020年11月から2024年5月までの3年半の間に、金ETF保有者はネットベースで年間平均およそ180~200トンの金を世界の消費者に供給しました。この43ヵ月間のうち、グローバルの金ETFが流入超となったのはわずか10ヵ月です6。 

グローバルの金ETFの運用資産残高は2021~2023年まで2020年のピーク水準を下回り、その後ほぼ横ばいで推移したのち、2024年に400億ドル超増加しました(図表2)7

しかし、エクスポージャーを維持してきた金ETFの投資家は継続的なバリュエーション低下の影響を受けていません。というのも、FRBが2022~2023年にかけて積極的に利上げを行ったにもかかわらず、金価格は歴史的高水準にとどまり、1オンスあたり1,800~2,000ドルのレンジで推移したからです8。金市場は他にも、新興国市場や先進国市場、アジアの中央銀行ならびに中国の消費者などの需要に支えられました。

出所:ブルームバーグ・ファイナンスL.P.,ロンドン金地金市場協会(LBMA)、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2024年12月31日時点。

このように、ETFの在庫積み増しサイクルは金市場にとって極めて強気材料であり、金価格が1オンスあたり3,100ドルをつけるという当社シナリオが正当化される可能性があります。 

近年では、金ETFによる年間180~200トンの売却を吸収したのは公的部門9(2022~2023年)および中国の消費需要(2023~2024年)でした10。2024年後半の金ETFによる購入ペースが2025年も持続し、さらに加速すれば、需要を押し退けるためには金価格が大幅に上昇する必要があるでしょう。

ETF投資家は金市場の最大のプレーヤーではないという意見もあるでしょう。確かにその通りですが、現物の金の消費パターンのデルタ、すなわち変化はセンチメントにとって極めて重要です。たとえば、世界の金ETFが2025年に150~160トンの流入超となった場合(2024年6~10月と同ペース)、2023年から2025年の需要の伸びは400トンと大幅増となります11

このシナリオではETF投資は金セクターにおける消費の伸びを大幅に押し上げる要因となります。より重要な点は、金市場はネットベースでETFの供給源から需要源への急激なシフトに直面することです。

ETF投資家が金の現物市場を引き締めるか? 

金には金融商品と実物資産という2つの側面があります。したがって、パンデミック後の金属のリサイクル活動が低迷しているため、金ETFの在庫状況は実物市場にとって極めて重要となっています。金ETFの売り注文が買い注文にシフトすれば(金融市場の強気シグナルである以上に)、実物の供給をさらに引き締める可能性もあります。 

金の需給バランスの供給サイドは以下の通りです。金の供給 = 生産 + ヘッジ供給(ネット)+ スクラップのリサイクル

金のスクラップは過去5年間の年間供給の約25%を占めていますが、歴史的には価格が上昇すると供給も増加する傾向が見られます(たとえば2010~2012年には総供給に占める割合は約35%でした)12。こうした傾向は過去10年間で弱まっていますが、特に2020年以降は金価格が米ドル建て、特に非米ドル建てで過去最高値を更新していることから、意外な動きに思われます。

ここには多くの要因が働いています。それでも、ETF需要の大幅な変化によって他の金の消費者が締め出される可能性があるのと同様に、ETF投資家が金の供給側から購入側にシフトするには、金価格が上昇し、スクラップのリサイクルに弾みがつく必要があると考えるのは妥当と思われます。

出所:ロンドン金地金市場協会(LBMA)、ワールド ゴールド カウンシル、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2024年12月31日時点。注:2024年の世界の金リサイクルは四半期データに基づくトレンド推計値です。

フロー・サイクルとポジショニングは金にとって重要

グローバルの金ETF投資家は2020年11月から2024年5月にかけて、930トンもの金を売却しました。そして2024年には価格が高騰し、主要G10通貨すべての名目価格が記録的水準に達したにもかかわらず、グローバルの金ETFの金保有高は依然2020年10月の過去最高水準を約25%下回っています13。おそらく、ハイテク株の上昇に乗り遅れまいという心理(いわゆるFOMO)あるいはFRBの利上げ懸念から投資家がパンデミック後に金ETFを乗り換えたか、利益確定のための戦術的な売りに動いたものと思われます。そのため、金ETFの保有高および資金フローは、過去20年間の強気相場と比べて低調と見られます。

ただこうした動きは2024年後半に変わり始めたようです。そして今後はFRBと金利市場が支援材料になる可能性があります。

関係性は変化する可能性があるものの、金ETFへの資金流入は、米国の実質金利の低下局面で強まる傾向があります。それが特に顕著だったのは、FRBが政策金利をゼロ金利下限(ZLB)まで引き下げた2009~2020年の間です(図表4)14

図表4:米金利低下は歴史的に金ETFへの流入を促進

Gold Flows Figure 4

FRBの政策緩和に関しては、労働市場が依然として力強くインフレ圧力への懸念が続いているため、かなり積極的なペースとなる可能性は極めて低いものの、おそらく2025年に政策の正常化がさらに進むと見られます。短期金融市場は、今年後半に2~3回の利下げの実施を引き続き織り込んでいます15。そうなれば、金のようなゼロ・クーポン資産を保有する機会コストは低下するため、金地金の価格やETFへの資金流入は支えられるでしょう。 

加えて、トランプ政権が発足することから米国の国内政策の行方は流動的で極めて不透明です。パウエルFRB議長は2024年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、今後6~12ヵ月のあいだに政策目標をめぐる対立が起こる可能性を示唆しました。その結果、不確実性リスクプレミアムが現れ、資産市場のボラティリティが上昇し、大幅な相場下落のリスクが高まり、セーフヘイブン(安全な逃避先)と認識されている資産に対する需要が拡大すれば、金地金への資金流入がさらに加速することも考えられます*。一方、インフレ上昇につながるような政策(財政や貿易など)により、FRBの緩和余地が制約される可能性もあります。いずれにしても、今後の展開を見守る必要があります。

全体としては、2025年の金ETFへの資金流入増が大きなカタリストとなり、金の強気相場がさらに大きく進むことが予想されます。