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紅海貿易の混乱は、パンデミック級の深刻なダメージをもたらすか?

紅海における海運の大混乱は、供給に対するマイナスのショックであり、新型コロナウイルスによるパンデミック時に経済を停滞させたいくつかの問題、すなわちインフレ、原油価格ショック、生産の遅延に関する懸念に火をつけました。市場参加者の懸念が当然とみられるのは、スエズ運河やバブ・エル・マンデブ海峡などがある紅海が、国際貿易の要衝であるためです(図表1)。それでも当社は、紅海での紛争がパンデミック級のサプライチェーン問題に発展することはないとみています。

図表1:スエズ運河を利用する船舶は、通常であれば紅海を航行:スエズ運河の圧倒的な通航量を示すデータ

出所:2021年4月18日付ニュージーランド外務貿易省(在カイロ・ニュージーランド大使館作成)市場レポート。
* 2019年のデータに基づいています。

海上運賃の高騰はデータにも現れていますが、海運の混乱はグローバルサプライチェーンの一部に限られており、世界レベルでの最終的なインフレへの影響は大幅に抑えられています。

フラッシュバック:コロナ期のサプライチェーン問題

紅海での海運の混乱が続いていることを受け、2021年~2022年にみられた海運コストの高騰や世界的なサプライチェーンの深刻な問題が再来するとの差し迫った警告が発せられています。こうした懸念が行き過ぎだと言える主な2つの理由は、(1)今回の海運コストの上昇は、より緩やかで局地的であること、そして最も重要な点として(2)グローバルな生産能力に対する悪影響が今回はみられないことです。

海運コストの上昇に関する比較

まず、今回の危機が局地的であり代替航路が存在することを主な理由に、直近の海運コスト上昇は、急速ではあるものの、コロナ時代の高騰に比べればほんのわずかな幅にとどまっています。実際、上昇が既にピークに達した可能性を示唆する、暫定的な兆候もいくつかみられます。また、欧州はサプライチェーンの混乱とそれに伴うインフレ圧力のどちらに対しても、米国よりも脆弱であると考えられます。

昨年11月に紅海の危機が発生して以来、紅海の港を経由する海上コンテナ輸送量は、約80%の激減となりました(図表2)。ただし、減少した輸送量は単に消えてしまったわけではなく、主に喜望峰回りの代替航路に切り替えられています。

こうした航路変更の結果、欧州からアジアまでの所要日数は1〜2週間延び1、コストは上昇します。海運調査会社Drewryの世界コンテナ運賃指数(WCI)によれば、12月上旬から2月上旬にかけて、40フィートコンテナあたりのスポットコンテナ運賃は、上海~ニューヨーク、上海~ロサンゼルス、上海~ロッテルダムの各航路で、それぞれ128%、146%、230%の上昇となりました(図表3)。また、ベンチマークとなるロッテルダム~ニューヨーク航路の運賃は、31%の上昇となっています。

額面通りに受け取れば、こうした運賃の上昇は懸念されるものの、コロナ期にみられた上昇の大きさに比べると小さいものです。確かに上昇のスピードはやや速かったものの、それもうなずけるのは、今回の紅海ショックが航行量の多い時期に発生し、輸出業者には、商品をできるだけ早く目的地に届けるための、迅速な行動が求められたためです。コロナ期については、経済再開の初期段階では遊休船舶の数が十分であったことから、当初のコスト上昇スピードはより緩やかなものでした。今回はそうではありませんが、重要な点は変化のスピードが、変化の最終的な大きさを表すと考えるべきではないということです。実際、入手可能な最新の週次データが示しているのは、こうした運賃のなかには一時的に頭打ちしている、さらには緩やかに反転する兆しがみられるものすらあるということです。

一部の指標は海運コストの上昇を過大に見積もっている可能性

加えて、上海のベンチマーク運賃(図表3)が、世界の海運コストを代表するものであるかは疑問です。欧米航路の運賃にはほとんど変化がないことから、すべての航路に影響が及んでいるわけではないことは明らかです。また、上海と中国全体の間でも運賃には多少の差があり、これが示しているのは上海の指標が、中国発の平均海運コストの上昇を実際よりも大きく見せている可能性です(図表4)。事実、こうした中国全体を表すより幅広い指標によれば、米国東海岸または西海岸向けの海運コストには、目に見える上昇はほとんどありません(図表5)。航路に関するこのような詳細データは、今回の海運コストの上昇がパンデミック時のサプライチェーン危機には匹敵しないとの考えを、さらに裏付けています。

結論

足元の状況は、物流における頭痛の種ではあるものの、本格的な物流危機ではありません。生産能力は影響を受けていないためです。工場は生産を続けており、代替航路への変更に伴う遅延にさえ対応できれば、グローバルサプライチェーンは機能しています。グローバルサプライチェーンのあらゆる部分がロックダウンによって数週間から数ヵ月にわたり休眠状態となったパンデミック時の厳しさに比べれば、目の前の問題は大して複雑なものではありません。図表6は、遅延がグローバルサプライチェーン全体にわたって、発生しているわけではないことを示しています。

海運コストは多少上昇したかもしれませんが、混雑度合いは増していません(図表5および図表6)。現在の課題は、再配分の実現と若干の効率低下であり、システム全体への過大な負荷ではありません。これまで述べてきた理由から、インフレに対する最終的な影響は限定的であり、多くの品目(特に高額ハイテク機器)にとっては重要ですらない可能性が高いとみられます。図表7は、パンデミック以降の商品価格の下落を表しています。

穀物のようなかさばる品目では若干の価格上昇は見られるかもしれませんが、2022年のピーク以降、幅広い商品指数で価格は大幅に下落しており、足元の水準から小幅に上昇したとしても、現在進行している世界的なディスインフレというシナリオが崩れることはないでしょう。

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