米連邦準備制度理事会(FRB)が50ベーシス・ポイント(bps)の利下げを実施し、利下げサイクルが開始しました。投資家は今後数ヵ月、そして数年にわたってどのような見通しを持つべきでしょうか?
9月18日(水)、米連邦準備制度理事会(FRB)は50ベーシスポイント(bps)の利下げを実施すると発表しました。この春に、FRBが利下げを先延ばししすぎることへの懸念を示した当社を含め、市場参加者はこの動きを好感しました。
年初来、データは強弱混在しており、予想を上回るインフレ統計と予想を下回る雇用統計のどちらをより重視すべきかについて、エコノミストや投資家の間で議論が広がっていました。当社は、インフレの粘着性が予想以上に強いことを示す消費者物価指数(CPI)や個人消費支出(PCE)価格指数より、労働市場の軟化の兆候が増えていることを懸念していました。当社は7月の利下げを期待していましたが、18日の利下げ幅は遅れを取り戻そうというFRBの意思を反映しています。
利下げサイクルが開始された今、投資家は今後数ヵ月そして数年にわたって、どのような見通しをもつべきでしょうか?まったく同じ金利サイクルは2つとなく、また将来のサイクルを予測するのには、過去のサイクルは数が限られています。それでも何が起こりそうなのか、いくつか所見を示すことは可能です。1981年以降の9回の利下げサイクルで、米国債はサイクル期間中に平均して、株式とキャッシュをアウトパフォームしました。例外は1998年で、米国債はキャッシュをアンダーパフォームしました(1998年に何が起きたのでしょうか?当時の利下げサイクルのきっかけとなったのは、同年8月17日に始まったロシア債務危機とそれに続くロングターム・キャピタル・マネジメント[LTCM]の破綻で、この結果、グローバル金融市場全体から広く流動性が引き揚げられました)。
米国債の好調なパフォーマンスは、直観に反するように思えるかもしれません。米国債の利回りは通常、利下げまでの数ヵ月間に低下し、その後は横ばいで推移するからです。しかし、この好調なパフォーマンスは、利下げサイクル全体の平均です。そして株式も平均リターンはプラスですが、1981年、2001年、2007年、すなわちFRBがハードランディングを回避できなかったサイクルでは打撃を受けました。
特に興味深いのは、いくつかの理由から利下げ後に株価が上昇すると一般的に考えられている点です。金利低下は企業の借入れコストを抑えるため、企業利益のプラス要因です。また将来のキャッシュフローの割引率も低下するため、他の条件が同じであれば、株式のバリュエーション上昇につながります。また金利が低下すると、株式のリスクプレミアムは理論的に上昇します。ただ、実際には株式と債券のリターンは、その他多くの要因から影響を受けます。市場がFRBはソフトランディングに成功すると受け止めているか、それとも、将来の経済成長をめぐって不透明材料が多過ぎると受け止めているか(外的リスクがあるときに多くみられる)によって、市場の反応は異なると思われます。
1つの見方として、今回の利下げサイクルは、パンデミック後の利上げによって意図的に作り出された景気減速の結果として、開始しました。あらゆる観点から見て、コントロールされたソフトランディングであるという兆候が示されています。これは、債券と株式の双方にとって明るい兆しです(歴史に基づくと、株式は債券をアウトパフォームします)。その一方で、今回のサイクルは、S&P500種株価指数が史上最高値近辺にあり、テクノロジーセクターのバリュエーションが行き過ぎた水準にある中で始まっています(株式は2001年、利下げ開始の翌年に12%下落しています)。
また、著しい混迷を見せてきた米大統領選も、残り2ヵ月を切っています。選挙年の秋に利下げサイクルが開始したのは、今回以外では1984年9月だけです。大統領選でロナルド・レーガン氏(共和党)がウォルター・モンデール氏(民主党)を大差で破る中、ポール・ボルカー議長率いるFRBは1970年代のインフレ危機の余波に対処していました。利下げサイクル開始から2年後、株式市場は活況を呈しました。
したがって、株式市場が好調に推移する(債券市場も同様に好調となる)が2ポイント、株価下落が1ポイント獲得となります。これが、ほとんどの投資プロフェッショナルが金利サイクルのタイミングを支持していない理由の1つです。たとえFRBの利下げ経路を完全に予測できたとしても、確実にベストと言えるアセットアロケーションを構築することはできません。
1つのアプローチ(当社の考える長期投資家に最適なアプローチ)は、投資家の資金ニーズに沿って株式と債券に資産を分散することです。これは負債を意識したごく基本的な分散されたアセットアロケーションです。他には、最悪の結果に対するヘッジ手段として、様々なアセットクラスに資産を配分するアプローチがあります。これはもちろん分散投資の1種で、リスクエクスポージャーの制限を目的にしていますが、将来の資金ニーズが具体的にはない長期投資家にとっても、有力な選択肢となり得ます。いずれのアプローチに関しても、コモディティ、不動産、プライベート資産、その他オルタナティブ資産を加えれば、さらなる分散効果を得ることができます。
マクロ・レジームに備える投資は簡単ではありませんが、マクロ要因に影響されにくいポートフォリオを周到に構築するための、実証された方法があります。ただ、当社が考える最も可能性の高いシナリオは、依然としてソフトランディングです。つまり、バランスの取れたポートフォリオは、全般的に好調なパフォーマンスを示すということです。