台湾は世界の半導体の60%超、最先端の半導体の90%を製造しています。このように台湾は世界経済において重要な位置を占めているため、中台関係に関するリスクを認識しておく必要があります。
台湾は1月に総統選と立法院選を実施しました。結果は市場予想通り、総統選では民主進歩党(民進党)の頼清徳氏が勝利しましたが、立法院選では民進党の議席は過半数を割り込みました。これは概ね織り込み済みだったことから、市場はあまり反応しませんでした。確かに選挙自体は市場を動かす材料にはなりませんでしたが、新たな指導者の誕生は今年この先、下振れリスクが生じる余地が残っていることを意味します。
特に台湾の新政権は今後数ヵ月にかけて、外交関係で難しい舵取りを求められます。新政権に執行リスクが伴うのは常ですが、特に頼氏は中国が最も警戒する候補者でした。さらに、台湾の内政とはいえ、台湾海峡の緊張の高まりという、外部要因にも左右されます。特に今年は米大統領選を控え、海外の要人が外交政策をめぐる発言を通じて米中関係に影響を及ぼす可能性もあり、台湾海峡の緊張が高まることも考えられます。
ここで注目すべきなのは、軍事衝突のような極端なテールリスクより、そこまでエスカレートしなくとも現実味があり、世界の市場にリスクオフの動きをもたらす可能性のあるシナリオです(たとえば軍事力をちらつかせた威嚇、領海や領空への侵入、一時的な海峡封鎖など)。特に、立法院が開会する2月1日から新総統が就任する5月20日までの政権移行期間には、中国政府が新政権を試そうとすることも考えられ、リスクにさらされやすいとみられます。立法院は野党が多数派であるだけでなく、どの政党も過半数を握っておらず、以前より内部対立が起こりやすくなっています。
また米国の選挙に関連する措置や発言もリスク要因です。重要なポイントは、台湾危機は、可能性が低いと見なされている割に影響が大きいため、市場に過大な影響が及ぶ恐れがあることです ―― 危機が深刻化する可能性は極めて低いと見なされているものの、悲惨な結果になる可能性もあります。ブルームバーグ・エコノミクスが最近発表したところによると、戦争になった場合、世界の国内総生産(GDP)の損失額は、世界金融危機時の少なくとも2倍になると推計されます。
台湾は、半導体産業で圧倒的な地位を占め、その意味で21世紀のグローバル経済の要ともいえる存在であり、したがって金融市場は中台関係を注意深く見守っていく必要があります。台湾は世界のファウンドリ(半導体の受託生産)市場を席捲し、他のアジア諸国を引き離していますが、台湾の質的優位性はそれだけではありません。現在、最先端半導体のほとんどは台湾で製造されています。
最後に、現在ファウンドリの製造拠点多様化が進んでいますが、そのペースは非常に緩やかになるとみられることから、世界の台湾依存は2030年代に入ってもしばらく続きそうです。地政学的リスクは確かに増大しています ―― 背景には、独立国家としての地位を確立しようとする風潮が台湾で強まっていることへの中国の懸念だけでなく、欧米の圧力によって台湾輸出の相対的な方向性に影響が出始めていることもあげられます(図表2)。
台湾の為替政策を踏まえると、台湾ドルは株式指標と比べて、将来の緊張の高まりのシグナルとして有用ではありません。台湾の外交関係に関連するリスクオフ・イベントが増加するとの見通しは、今後数ヵ月でクロス・アセットのボラティリティ急上昇につながる可能性があります。これは、ウクライナや中東の武力紛争による逆風ならびに来たる米大統領選に関連するリスクに加え、投資に影響を及ぼす要因です。