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2025年に市場を動かす可能性がある6つのグレイ・スワン

ことわざにあるように、人生で唯一変わらないものは変化です。新しい状況に適応し、期待を再調整する準備をしておくことは、投資家にとって不可欠です。そのため、私たちは毎年、可能性は低いものの現実になった場合に市場を動かす可能性のある、いくつかのシナリオを想定しています。

Lori M. Heinel profile picture
Executive Vice President, Global Chief Investment Officer

ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(当社)では、発生する可能性が極めて低いものの、投資に幅広く影響を及ぼすリスクを伴うシナリオを通常、グレイ・スワンと定義しています。2025年がどのような展開になるかについて、当社が考える基本シナリオは「グローバル市場展望2025」で述べられています。とはいえ、予想は厳密な科学ではありません。そこで、当社の見解を徹底的に検証し、基本シナリオから逸脱するシナリオについてwhat-if分析を行うこととしました。

代替シナリオの検討は投資判断の一部にするべきです。なぜなら、そうすることにより、代替シナリオや類似の状況が現実のものとなった場合に迅速に反応し、ポートフォリオの資産配分を見直すことが可能になるでしょう。最初の段階で考えられ得る結果を想定しておくことで、不測の事態が起こるかどうかにかかわらず、投資家は適切な戦略を実行すべきか否か、またどのように実行すべきかについて、より良い判断ができるようになるはずです。

市場で起きた結果が予想を裏切ることの多い世界では、投資家は、グレイ・スワンのように可能性は低いものの重大な結果になる可能性の高いイベントに備えておくことで、予想外の事態に先んじて行動することが可能になります。本稿では、可能性の低い代替シナリオ(グレイ・スワン)をいくつか検討し、投資に与える潜在的な影響を評価します。

1. 欧州におけるリセットのサプライズ

欧州ほど2025年への備えが不十分と思われる地域はないと思われます。大国間の武力外交によって引き起こされる国境紛争はコントロール不能で、高齢化が進む中で経済は硬直的に管理、過剰に規制され、通貨統合は固定相場制に近く、産業基盤は競争力を維持する上でカギとなる特徴を失いつつあります。

とはいえ、欧州が最悪の状況で投資家に敬遠されているからこそ、大逆転の復活劇が考えられるのです。グレイ・スワンのシナリオでは、トランプ政権が貿易、エネルギー、国防面で欧州に圧力をかける一方、ウクライナ戦争の激化を抑え、中東紛争の沈静化に貢献します。これを引き金に、欧州大陸全体のセンチメントおよび世界の投資家のリスク認識が変わることでしょう。さらに、2月下旬に実施予定のドイツ総選挙では、「債務ブレーキ」(ドイツの債務水準を制限するルール)の改革と成長促進を掲げる新政権が誕生します。本格的なケインズ革命とまではいかないものの、ドイツは供給サイドの改革を推進しながら、GDPのほぼ2%に相当する財政刺激策を実施するという驚くべき政策を打ち出します。しかし、ドイツはこうしたポジティブなストーリーのごく一部にすぎません。経済成長の進展は、欧州大陸全体における国防費の増加にもつながります。国防セクターは、生産チェーンの大半が地域的なものであることから、特に高い財政乗数効果をもたらすセクターです。これは米国製武器の輸入増加にもつながりますが、米国産エネルギーの大量購入の長期的なコミットメントと並び、欧州が米国との長期にわたる貿易戦争を回避する助けにもなります。また、エネルギー価格は、かつてロシアからガス供給を受けていた時よりも上昇するかもしれませんが、欧州産業の多くは競争力を維持できると見ています。特に、他の貿易国が米国との貿易摩擦の影響を引き続き受けるとすれば、なおさらそれが当てはまります。

ドイツをはじめとするユーロ圏諸国の経済成長率が上方修正されることによって、フランスの財政危機が安定化し、市場の信認を得られる予算の成立が進みます。第3四半期末までには、予想される米国と欧州の成長率と債券利回り格差が縮小し、ユーロの反騰と欧州株式市場のパフォーマンス回復を裏付けることになります。図表1に示すとおり、直近の共和党政権時代にはユーロのパフォーマンスが上向いていたことを考えると、これはまったくありえないものではないでしょう。

図表1:ユーロ/米ドルの米大統領政党別パフォーマンス(2004~2024年)

ユーロ/米ドルの米大統領政党別パフォーマンス(2004~2024年)

2. 中国と新興市場のペイン・トレード

最近の新興国株式市場に対する投資家の見方を一言で表すと「失望」です。新興国市場の成長ストーリーは概ね良好ですが、先進国市場とは異なり、こうしたGDPの伸びは株式投資家に十分に還元されていません。

この失望は主に2つの形で表れています。グローバルな投資家の新興国市場ポジションは、図表2に示すとおり、主に新興国市場の標準指数1の中で最大の市場である中国へのアンダーウェイトを通じて、過去最低に近い水準にあります。 しかし、これにより、きわめて明確な「ペイン・トレード(痛みを伴うトレード)」を招く可能性が出てきます。このシナリオでは、自身に不利となるポジション(この場合は中国株のアンダーウェイトまたはショート・ポジション)を取っている多くの投資家が対象となります。

このグレイ・スワンでは、中国政府は強力な改革の実現に本腰を入れます。中国政府はほぼすべての政策を試した後、2024年秋にようやく市場を驚かせる一連の対策を発表し、本格的な動きが始まる兆しが見られました。こうした動きは投資家が具体策に失望したことから長続きしませんでしたが、政策における重点のシフトは明るい兆しとなりました。こうした状況を踏まえ、中国は改革に向けてより実質的な一歩を踏み出すことになります。何よりもこれは、中国株式に対する短期的な見方を改善するものであり、投資家は現在の見方を再評価することでしょう。そうした動きは、2024年9月に見られたように、急速かつ激しいものになる可能性があります。中国をショートするトレードは、従来の基準ではすでに「老朽化」しています。

最も大きなペイン・トレードは中国A株市場の上昇で、次いで中国オフショア銘柄の上昇になる可能性が高いと言えます。裏を返せば、投資家はこれらの購入資金を調達する必要があり、ここ数年における新興国市場の勝ち組銘柄(たとえば、台湾やインド)の一部を売却する可能性があります。さらに、最も痛みを伴うことは、常に敬遠されている最もクオリティの低い銘柄(たとえば、中国の不動産株)であることを常に認識しておく必要があります。

新興国市場には、確率的には低いものの、2025年の新興国株式を押し上げる可能性のあるシナリオが多数存在します。たとえば、米中貿易協定の合意、米ドル安、インフレ抑制による世界経済の安定成長、先進国市場の企業が新興国市場の資産を買収するM&A(合併・買収)の活発化などです。これらのシナリオはいずれも、新興国市場をショートまたはアンダーウェイトにしている投資家のペイン・トレードに拍車をかけるものですが、中国の新たに改善されたストーリーほど強力なものはないでしょう。

図表2:機関投資家は新興国市場と中国を大幅にアンダーウェイト

機関投資家は新興国市場と中国を大幅にアンダーウェイト

3. 1920年代と1970年代を彷彿させるグレイ・スワン

2025年初頭は分岐点のように思われます。今後10年間は新たな「狂騒の20年代」となり、米国株式市場は活況が絶え間なく続き、金融緩和と規制緩和が進む一方で、失政が悲惨な結果を招く可能性はあるのでしょうか。それとも、スタグフレーション、低経済成長、財政赤字の拡大という1970年代の再来となるものの、厳しい政策を選択することにより、最終的には数十年にわたる繁栄がもたらされるのでしょうか。このグレイ・スワンのシナリオの下で、どちらの方向へ進むかを決定づける経済、財政および金融の各要因が引き起こす相互作用について考察します。

どの10年も異なるものですが、過去と似ている期間もあります。2020年代に株式市場が急騰し、S&P500指数は2024年末までの5年間で94%上昇しました。懸念材料はバリュエーションの急上昇であり、2024年末時点におけるS&P500指数の景気変動調整後株価収益率(CAPE)は37.9です。こうした状況は、図表3に示すとおり、1920年代末の状況と重なります(株価暴落前の1929年9月のCAPEは32.6)。当時は電話、ラジオ、電化製品といった新技術に熱狂し、製造業が急成長して消費が膨らんだことが、市場バリュエーションの過度な上昇につながりました。当時の規制当局は、1920年代に証拠金規制を大幅に強化するという、今にして思えば、誤った判断を下しました。

現在、消費者のレバレッジ(借り入れ)は抑制されているように思われますが、すでに膨らんでいる米財政債務の拡大が加速すれば、消費者心理に決定的な打撃を与える可能性があります。さらに、政策立案当局に債務拡大に対処する意思や手段があるかどうかについて債券市場が懐疑的になった場合は、投資家が抱く不安は急速に高まる可能性があります。加えて、世界の中央銀行が誤った政策決定を犯す可能性もあります。米連邦準備制度理事会(FRB)の政策に予期せぬ急激な変化が生じた場合、市場に疑念が生まれ、投資家がリスク資産を売却する可能性もあります。もう一つの脆弱性として、トランプ政権が計画中の関税政策や移民政策がインフレ圧力を強め、利上げ懸念が高まった場合に、米国株の売り急ぎが起こる可能性があることが挙げられます。

図表3:米国株式の景気変動調整後株価収益率(CAPE)(1900~2024年)

米国株式の景気変動調整後株価収益率(CAPE)(1900~2024年)

しかし、これは一つのグレイ・スワンにすぎず、別のシナリオもあり得ます。もし米国が「グレート・インフレーション」の10年と呼ばれる1970年代のような状況に陥ったとすればどうなるでしょうか。新型コロナウイルスのパンデミックによって、持続的で根強いインフレを招いた1978~1979年の石油関連ショックと同様の食料およびエネルギー価格への打撃が起こりました。2024年を通して、インフレ率は多くの予想を上回る水準で推移しました。一方、1970年代の地政学的な類似点も明らかになっており、ベトナムや中東の戦争は今日の欧州や中東での紛争と重ね合わされ、食料やエネルギー商品の価格の急騰のほか、米中間の対立の影響を受けやすい業界で上流のサプライチェーンに関わるコストが上昇しています。

しかし、1970年代とは異なり、米国の対GDP負債比率は過去最高に近い水準で推移しており(図表4)、米国経済を押し上げるための追加的な政府支出を確保することが難しくなっています。インフレ抑制が困難となり、財政支出のような成長エンジンに頼る余地が小さくなった場合、恐るべきスタグフレーションが再発する可能性があります。

図表4:過去最高に迫る米国の債務残高(1900~2024年)

過去最高に迫る米国の債務残高(1900~2024年)

鍵となるのは次に起こることでしょう。物価の高騰と低迷する経済が、米国を正常化させるための厳しい政策を決定するカタリストとなる可能性があります。財政赤字削減のための政策、つまり歳出削減、増税、あるいは景気刺激策を実施するためには、FRBがポール・ボルカー議長の下で1979年から実施したような抜本的な政策と同様に、強力な政治の意思と実行力が求められます。1980年代と1990年代に見られた長期的な景気拡大は、こうした政策のおかげと考える人も多数います。行動を起こさなければ、さらに暗い未来が待ち受けているかもしれません。

グレイ・スワンの2つのシナリオは、現在のポジティブなコンセンサスから大きく逸脱することを示唆しています。投資家は可能性は低いものの起こり得る結果を緩和するために、プロテクションや分散投資を強化する工夫が必要です。これには、株式や投資適格債のクオリティの高いディフェンシブ銘柄、ボラティリティの管理、およびヘッジ戦略などが含まれますが、これらはすべて、リスク管理を厳格に行いつつ、資産クラスのエクスポージャーを適切に管理することが求められます。

4. 量子超越性の実現:金融サービスにとってのグレイ・スワン?

量子コンピューティングにおけるブレークスルーは常に視野の中にありながら、一向に近づく様子がありませんでした。しかし、グーグルが2024年12月に量子チップ「ウィロー」を発表したことにより、その未来が近づいたようです。2 とはいえ、量子コンピューティングの「変革的な」イベントはまだこれからです。当社のグレイ・スワンでは、これまで注目されていなかった組織がウィロー・チップの成功に基づき、量子エラー訂正(QEC)におけるさらなるブレークスルーを発表します。これは小さな改善にとどまりません。信頼性の高い量子計算に必要なオーバーヘッドコスト(処理に必要となる付帯的コスト)の劇的な削減に成功します。

現在進められている研究開発の中で、堅固なQECは早期の実現が期待されており、潜在的なインパクトが最も大きいブレークスルーの一つと目されています。QECは、量子ビット数の増加に伴うエラー率の上昇という問題に対処するもので、これは現在、量子コンピューティングの拡張性を妨げている要因の一つとなっています(量子ビットと量子コンピューティング全般に関する詳細は、こちらの当社レポートをご覧ください)。このブレークスルーは、大規模でエラー耐性を有する量子コンピューターの開発を大幅に加速し、量子アルゴリズムが現在の業界標準の暗号化を「破る」ことを可能にする能力を通じて、暗号に深く依存する金融サービス業界に破壊的な変革をもたらす可能性があります。ウィローは、量子ビット数の増加に伴って上昇するエラー率を低下させることが可能であることを示しています。

信頼性が高く拡張可能な量子コンピューティングが多くの産業にもたらす恩恵は、医療開発、工場、グローバル・サプライチェーンの最適化、金融詐欺やリスクパターンの特定など、計り知れないものがあります。現在の時間軸を覆すような近未来的イノベーションによって、国家、民間企業、悪意のある行為者(犯罪組織、ならず者国家)が互いに敵対する混沌とした対立を抑制することが可能になるような展開にも注目が集まっています。その一つが、現在の量子アルゴリズムに影響されないポスト量子暗号(PQC)の開発です。アップルはすでに、iMessageのチャットを保護する暗号化を「量子耐性」3にすると表明しています。 2025年には、解読不可能な暗号技術と量子コンピューティングの開発競争が本格化します。この競争から、次のエヌビディアやグーグルが生まれる可能性はあるでしょうか。あるいは、より核心に触れた言い方をすれば、最大の負け組となる可能性のあるのは誰でしょうか。

5. 市場を闇に陥れるイベント

すべてはつながっています。これは、次々と連鎖的な結果を引き起こす一連の偶然やイベントを合理化するために使い古された陳腐な表現であり、「もし蝶が羽ばたいたら…」という、繰り返し耳にする例えで終わってしまう可能性があります。しかし、コネクティビティ(接続性)は現在の世界を動かすきわめて現実的な要素です。電報や蒸気機関が発明されて以来、技術の進歩はコネクティビティを高める中心的役割を担ってきました。現在、私たちはブロードバンド、衛星、電力網などの公益事業の観点からコネクティビティについて話をしています。しかし、もし私たちがこれらの接続に依存していることが露呈したらどうなるでしょうか。

このグレイ・スワンでは、自然災害と外国からのサイバー攻撃が同時多発的に起こり、地域の送電網の故障が重なることによって広範囲にわたる停電が発生し、米国の主要ないくつかの州で1週間近くにわたって経済活動が停止します。全米で何ヵ月にもわたり、さまざまな種類の故障が次々と発生します。その影響は甚大なものになるでしょう。2025年は堅調に成長すると予測されてきた経済は、テクニカルリセッション(景気後退)に陥ります。

この危機はメディアで大々的に取り上げられ、政治的な厳しい監視の目にさらされます。そして、米国の電力インフラの耐性が徹底的に見直されます。テクノロジー企業や電力会社の上層部は長時間続く議会公聴会で証言しますが、そこから導かれる結論はただ一つ、送電網インフラは妨害行為やサイバー攻撃から完全に逃れることはできないというものです。現実には、米国はすでに、AI革命推進のために必要な大量のエネルギー需要を満たすどころか、日々のエネルギー需要を確実に満たすことすらできていないという厳しい状況に陥っています(図表5)。

危機管理と戦略の見直しを行う時期が到来します。米新政権は「エネルギー安全保障のためのワープ・スピード作戦」を開始します。米国は規制および許認可の合理化に不可抗力的アプローチを採用します。米国はカナダと緊密に協力し、二国間のエネルギー協力関係を強化していきます。カナダは経済的理由および協力関係によって関税の脅威を回避できることから、こうした動きに積極的に同意します。大規模な資金調達プログラムが承認され、国家のエネルギー安全保障に対して「あらゆる手段を講じる」というアプローチを取ることになります。現在、州政府に付与されている規制権限の一部が、一時的に連邦当局に移行します。州当局は、州間のアプローチの整合性を確保するために、共通の計画に合意します。米国の経験は、欧州の政策立案当局、特にドイツの政策立案当局にとって、欧州のエネルギー供給の耐性を高めるために、早急に是正措置を講じる必要があることを示す警鐘となります。ドイツは同様のプログラムに資金を提供するため、債務上限ルールを10年間適用除外とする措置を承認することになります。

米国株はMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスの約3分の2を占めているため、米国株の下落が投資家に大きなショックを与え、世界中のポートフォリオに打撃が及びます。株式市場の下落は、程度の差こそあれ、他の地域にも波及します。FRBをはじめとする各国の中央銀行が政策金利を引き下げ、「質への逃避」からソブリン債利回りが低下します。資産クラスや地域が分散されたポートフォリオを保有する投資家にとっては、その影響はさほど大きなものではなく、ダウンサイド・プロテクション戦略を採用し、十分な流動性を確保している投資家にとっては、回復局面が訪れた際に十分な恩恵を受けることでしょう。

図表5:電力不足の恐れはすでにリスク

電力不足の恐れはすでにリスク

6. トランプ・プラザ合意

トランプ米大統領は、米国の大幅な貿易赤字に対して嫌悪感を明確に表しており、米国製品の競争力を高めるために関税の引き上げと米ドル安の両方を望むと繰り返し述べています。しかし、米国の力強い経済成長、高金利および堅調な企業収益が米国への安定した資金流入を呼び込み、2021年のトランプ大統領退任以降、貿易加重ベースの米ドルは11月の大統領選勝利後の上昇も含め、約20%上昇しています。トランプ大統領が提案する減税、規制緩和、関税の引き上げといった政策は、米ドル高をさらに進めるファンダメンタルズ要因を強めることになります。

このグレイ・スワンシナリオでは、トランプ大統領が関税引き上げの脅しを利用して、米国、欧州連合(EU)、英国、日本、中国が協調介入を行わざるを得ないように仕向け、米ドル安と米国の貿易収支の改善を狙う可能性を検討します。これは1985年9月のプラザ合意のようなものです。プラザ合意は、1978年から1985年にかけて貿易加重ベースで50%近く上昇した米ドルを下落させるために、西ドイツ、英国、フランス、日本ならびに米国が合意したものです。これは成功を収め、米ドルは1987年3月末までに20%下落し、1988年末までにはさらに30%下落し、米国の貿易収支も改善しました。

このような合意は当社の基本シナリオからは程遠いものの、十分にあり得ます。日本は2022年以降、円を買い支えるためにすでに1,400億ドル近い市場介入を実施しており、このような取り組みへの協力を歓迎するのは間違いないでしょう。中国が国内景気を喚起し、負債を減らし、デフレと闘うために現在も奮闘していることを考えると、中国当局が、60%(あるいはそれ以上)の関税を課されるよりも、人民元の10%の上昇の方がはるかに脅威は小さいと考える可能性は不合理とは思えません。中国の慢性的な低成長と対米輸出の重要性を踏まえると、米ドル安よりも関税の方がより大きな脅威となる可能性があるため、EUと英国もこうした流れに追随する可能性があります。

米国の成長が鈍化し、利回りの低下が起こらない限り、プラザ合意の成功が再現することは難しいと言えますが、少なくとも一時的には、10~15%程度の米ドル安は十分にあり得えます。そうなれば、非米国資産の相対的なパフォーマンスが直接的に改善することになります。米ドル安の合意によって大規模関税が回避された場合は、リスクプレミアムが低下し、為替レートの変動による影響を除いても、非米国資産のパフォーマンスが一段と改善すると思われます。また、一部の投資家が米ドルのオーバーウェイト・ポジションの解消を余儀なくされ、為替介入の規模や期間が不透明であることに苦慮するなかで、通貨のボラティリティが一時的に急上昇する可能性も高まるでしょう。米国の貿易赤字削減という最終目標についてはどうでしょうか?米ドル安が長期的には少しでもプラスに働くのは確かですが、米国の経済成長率が潜在成長率を上回っている限り、輸入需要は堅調を維持し、貿易赤字の改善効果は弱まるとみられます。

図表6:新たなプラザ合意が近い?

新たなプラザ合意が近い?

共同執筆者

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Simona M Mocuta

Chief Economist

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Elliot Hentov, Ph.D.

Head of Macro Policy Research

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Altaf Kassam, CFA

Europe Head of Investment Strategy & Research

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Matthew Nest, CFA

Global Head of Active Fixed Income

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Esther Baroudy, CFA

Portfolio Manager

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Aaron R Hurd, FRM

Senior Portfolio Manager

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Jennifer Bender, Ph.D.

Global Chief Investment Strategist

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Christopher N Laine

Senior Portfolio Manager

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