金需要は宝飾品、金貨・小口の金地金、上場投資信託(ETF)への投資、中央銀行による購入がけん引していますが、人工知能(AI)ブームがこの構図を一変させる可能性はあるのでしょうか?
過去5年間、金需要は主として宝飾品(平均47%)、金貨、小口の金地金、上場投資信託(ETF)への投資(同28%)、中央銀行による外貨準備のための買い越し(同17%)で占められてきました。産業・技術用途での需要は、アナリストにとって「その他の項目」の中の1つにすぎず、全体に占める割合は平均8%にとどまっています1。
しかし、私の元には顧客から人口知能(AI)ブームがこの構図を一変させることはないか、との質問が多く寄せられます。とどまるところを知らないAI導入の勢いは、産業・テクノロジーセクターにおける金需要の増加につながるのでしょうか?
もちろん歴史は、金に対する需要がその高い伝導率、腐食のしにくさ、可鍛性をもとに変化してきたことを示しています。金は加工しやすいため、昔から幅広い製品の中核となってきました。中国では紀元前2,500年頃から天然痘や皮膚潰瘍の治療に使われており、おそらくインドのアーユルヴェーダ療法で金が使用されるようになったのも、その頃だと思われます。現在、関節炎などの炎症を抑えるための注射や心臓手術で使われるステントなどの医療器具に、金の化合物が使用されています。またナノテクノロジーの出現によって、コロイド状金ナノ粒子を使用して化学療法薬を患部に正確に届けられるようになりました。
ではAIは、新たな産業・技術用途誕生の火付け役になるのでしょうか?
現在、産業・テクノロジーセクターの需要に占める割合が、単独で最も大きい分野はエレクトロニクスです。そして私たちはデスクトップやラップトップ・コンピューターからタブレット、携帯電話に至るまで、デジタルデバイスへの依存度をますます強めており、その需要は今後も拡大し続けるでしょう。
産業・テクノロジーセクターには他にも、医療・歯科、航空宇宙、建設、化粧品、印刷などの利用分野があります。金は、生物学的に不活性なことから歯の被せ物、詰め物、ブリッジ技工、インプラントに適しています。航空宇宙分野では、金は太陽からの赤外線を遮断するためにサンバイザーや窓に使用されています。また住宅の断熱・防寒対策として、窓ガラスにも使用されます。金は化粧品にも使用されており、ロレアルからディオールまで様々なメーカーが金をスキンケアクリーム、リップクリーム、保湿剤などの美容外用薬に使用しています。印刷業界では、主にCDやDVDの表面保護に使用されていますが、3Dプリンティングでの使用も急拡大しています。
さらに金めっきは、かつては中世の絵画や重要な公共建築物のドーム型天井に主に使用されていましたが、現在は腕時計、眼鏡、万年筆のペン先をはじめとして、様々な用途に使用されています。
金は、寿司、アイスクリーム、コーヒーに金箔を乗せるなど、食品に使用されることもあります。
ワールド ゴールド カウンシルの「ゴールド・デマンド・トレンド2024年第2四半期」によると、エレクトロニクス産業における金の使用は11%増加と、3四半期連続で2桁の伸びを示しました。AI用や高性能コンピューティング用にハイエンド半導体がますます多く使用されるようになっており、それがテクノロジーセクターの需要が再燃した主な要因です。
実マイクロンによると、両社ともにハイエンドのメモリー半導体の2024年の在庫は既に売り切れており、2025年の生産分の多くも予約済みです。サムスンはAI用半導体の需要急増により、第2四半期の増収率を23%と予想しています。全般的には、世界半導体市場統計(WSTS)グループは今後18ヵ月にわたり市場は力強く成長し、半導体市場の2024年の成長率は16%になると予想しています2。際、大手半導体メーカーのほとんどが需要の力強さを報告し、好決算を発表しています。メモリー半導体の世界最大手、SKハイニックスと
このエレクトロニクス分野での金需要成長については、大局的に捉えることが重要です。
AIブームによってテクノロジーセクターの金需要は、2025年まで力強く推移する可能性があります
ワールド ゴールド カウンシルが指摘しているように産業・テクノロジーセクターにおける需要が2倍になっても、極めて重要な需給バランスが劇的に変化することはありません。8%の増加は、金市場内のダイナミクスを大きく変えるには不十分です。むしろ、これまで同様に、金の将来の価格は主要な需要要因によって決まるでしょう。
投資家にとって朗報は、3つの主要要因、すなわち宝飾品、投資、中央銀行の購入はいずれも明るい未来を示していることです。