リターンを牽引しているのは上位10銘柄なのに、なぜS&P500種指数全体を保有するのですか?
Matthew Bartoliniはこれに対し、分散投資は集中投資より優れているからだと述べ、チャートをもとにその根拠を説明しています。
リターンを牽引しているのは上位10銘柄なのに、なぜS&P500種指数全体を保有するのですか、上位10銘柄だけで十分では?
先ごろ講演を行ったある会議で参加者から受けたこの質問は、ここ数年にわたって市場を席捲している集中投資を支持する言説の核心を突くものでした。
これに対して私は、集中投資でリターンを上げるにはタイミングが重要だが、分散投資はタイミングを選ばないからだ、と答えました。そして本稿では、私がこれまで蓄えてきたチャートを用いてそれを裏付けていきます。
市場リターンの研究に使用するデータとして、ダートマス大学タック経営大学院のケネス・R・フレンチ教授のデータ・ライブラリー(フレンチ・データ)のリターン・ストリームに勝るものはありません。この時系列データは、当社のセクター別事業サイクルに関する詳細なリサーチそして本稿でも使用されています。
集中投資ポートフォリオには、フレンチ・データから入手した、市場の上位10%、上位20%、上位30%の銘柄で構成されるポートフォリオのリターンを用いています。市場リターンは、フレンチ・データのrm - rf ファクターにリスクフリーレートを足し戻して算出しました。
このデータに基づくと、1926年以降、市場全体への分散投資は、より集中投資された各ポートフォリオをアウトパフォームしています。また最も集中度の高いポートフォリオのリターンが最も低くなっています ―― それでも年率9.84%とかなりの数字ですが、市場の10.14%を下回っています1。
この年間30ベーシス・ポイント(bp)の差は、長期にわたって意味のある冨の蓄積につながります。1926年に市場に1ドル投資していた場合、現在その価値は1万2,930ドル(インフレ調整前)になるのに対し、上位10%のポートフォリオに投資していた場合、その価値は9,855ドルにとどまります(図表1)。「分散投資」を選んだ投資家は、資産を24%増やすことができたということです。
もちろん、1926年に株式を購入できたのは、現在98歳以上の投資家だけです。該当する方がいれば心から称賛を送ります。ただ、本稿では、より現実的な保有期間で比べるため、同じポートフォリオの10年移動平均リターンを分析しました。
この10年移動平均シナリオに基づくと、市場全体に分散投資されたポートフォリオはほとんどの場合、集中投資ポートフォリオをアウトパフォームしています。具体的には、市場は66%の確率で上位10%のポートフォリオをアウトパフォームしています。つまり、1,056個の10年移動平均値のうち701個(が10年間)で市場がアウトパフォームしたということです。また市場は、上位10%のポートフォリオを平均で年間0.52%アウトパフォームしています。そして、これは他のポートフォリオでも一貫しており、市場が集中投資ポートフォリオをアウトパフォームしています(図表2)。
この分析結果は、分析期間をさらに短くしても変わりません。市場全体への「分散投資」は1,128個の5年移動平均値のうち、53%で上位10%のポートフォリオをアウトパフォームしており、1926年以降、年平均0.33%の超過リターンを記録しています2。他の集中投資ポートフォリオと比較した場合もこの割合は50%を上回っており、平均超過リターンもプラスです3。
平均超過リターンを時系列でプロットすると、集中投資ポートフォリオに日が当たることはあっても、長期的には分散投資ポートフォリオが勝利を収めることがわかります。図表3は、上位10%、20%、30%の集中投資ポートフォリオに対する、市場の年率超過リターンの10年移動平均値をプロットしたものです。
集中投資ポートフォリオがアウトパフォームしている時期もありますが(1990年代や現在など)、ピーク時のリターンは分散投資ポートフォリオが集中投資ポートフォリオを上回っています。そして、1990年代に分散投資ポートフォリオから資金を引き揚げて、バブルに沸くドットコム銘柄に集中投資した投資家は、ポートフォリオの10年移動平均値で、その後174回連続で市場をアンダーパフォームしています4。
確かに現在のように、集中投資がしばらくアウトパフォームを続ける時期もあります。しかし、10年単位で見ると、分散投資の方がより一貫してアウトパフォームを続けています。また、集中投資ポートフォリオが急騰しても、その優位性は確実に平均回帰します。たとえば、分散投資ポートフォリオの10年移動平均値は、上位10%の集中投資ポートフォリオのリターンを平均38回連続で上回っています5。
集中投資ポートフォリオのアウトパフォーマンスの連続記録は平均で18回にとどまり6、集中投資ポートフォリオは時折脚光を浴びることがあっても、分散投資ポートフォリオの方が持久力に優れ、長続きすることを示しています。それは年間リターンを見ても明らかです。
1926年以降、分散投資ポートフォリオは年率ベースで50%を超える割合で集中投資ポートフォリオ(10%、20%、30%)をアウトパフォームしています。分散投資ポートフォリオはこの1世紀近い期間のほとんどでアウトパフォームしており、最も集中度の高いポートフォリオに対する超過リターンは年0.55%を上回っています(図表4)。
ビートルズ、マイルス・デイヴィス、そしてヨハン・セバスティアン・バッハのようなクラシック音楽が、今なお聴き継がれているのには理由があります。天才たちの生み出す音楽には時代を超える力があり、たとえ最新の音楽が流行しても、永遠に人々を魅了し続けるからです。
確かに1990年代には、集中投資ポートフォリオが市場を席捲したのと同様に、ラジオからはヴァニラ・アイスやリッキー・マーティンの曲ばかりが流れていました。しかし、分散投資はバッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調」のようなもの、つまり、最新のヒット曲や一発屋の楽曲よりも長く聴き継がれ、時代を超えて愛され続ける名曲です。結局のところ、Spotifyのバッハ公式プレイリストには60万を超える人が登録していますが、ヴァニラ・アイスの登録者数は1名です7。
市場センチメントはトップ記事に左右される傾向がありますが、データを深堀りすると意外な重要事実が明らかになることが多々あります。