オンライン⼩売業者が販売する数百万品⽬の価格に基づいて算出した、四半期インフレ指標を分析し、インフレの及ぼす影響を投資家が予測・評価する⼿助けをします。
米連邦準備制度理事会(FRB)が金融緩和サイクルに入ったことで、金利市場の不確実性はひとつ解消されたものの、利下げのペースと終着点という議論は引き続き残されています。そうした議論が落ち着くには、今後の労働市場とインフレに関するデータにともなうリスクバランスの変化が必要になるとみられます。このうちインフレについては、PriceStatsが大きな安心材料をもたらしています。第3四半期のPriceStatsは良好な動きとなり、9月は米国の物価水準が緩やかに低下したことを示しています。この低下により、PriceStatsの年間インフレ率は1.5%を下回り、ほぼ3年ぶりの低水準となりました。
こうした傾向は、公式データ、とりわけ住居費を除く消費者物価指数(CPI)の低下基調とも一致しています(図表1)。PriceStatsには直接反映されていない住居費が引き続き課題となるものの、パウエルFRB議長は最近、新規家賃の上昇率が落ち着きを維持している限り、住居費の高止まりを不安視する必要はないとの考えを強調しました。つまり、CPIのなかで住居費は単に低下が遅れているだけと割り切れば、FRBは今のところ米国のインフレを心配する状況にはないということです。このように考えると、今後の金融政策の正常化ペースは、労働市場の悪化(または改善)の度合いによって決まることになります。
新興国市場(EM)ソブリン債のファンダメンタルズは、インフレ率の低下を一因として、改善した可能性があります。新興国市場のなかには、金利とインフレのサイクルが先進国より数か月進んでいる国もみられます。その観点では、新興国市場全体にわたって今後も良好なインフレ環境が続くかどうか、注視していくことが重要です。
PriceStatsによると、多くの新興国にとって重要な食品価格の年間インフレ率は、今年の最低水準まで低下し、良好な動きを示しています(図表2)。これが特に重要な要素になり得るのがメキシコと南アフリカで、両国についてはPriceStatsの年間インフレ率が政府の公式データを下回っていることから、政策金利のさらなる引き下げ余地が示唆されます。
欧州中央銀行(ECB)はFRBとは対照的に、年初あたりから金融緩和サイクルについて、明確なメッセージを発信してきました。その内容は、6月に利下げを開始し、その後は四半期ごとに0.25%のペースで利下げを行っていくというものでした。しかし、先行指標の下振れや足元でのディスインフレの加速を受け、市場はより早いペースでの利下げを予想するようになっています(図表3)。
当社のPriceStatsもインフレの低下基調を裏付けており、ユーロ圏の年間インフレ率は第3四半期だけで1.4ポイント超低下しました。前年の数値が高かったことによるベース効果やエネルギー価格の影響があるものの、基調的なインフレ動向は明らかに鈍化しており、経済活動の低迷がいよいよ企業の価格決定力にも影響し始めていることが示唆されます。興味深いことに、こうしたインフレ動向の急激な変化や追加緩和の可能性も、欧州ソブリン債への投資という観点では、投資家の行動を大きく変えるには至っていません。特にドイツ国債については、長期投資家からの需要が異例の低水準にとどまっており、第4四半期も注意が必要です。