このデータは、数万におよぶポートフォリオから投資家行動の傾向を捉えたもので、世界の債券発行残高のおおよそ10%強を捉えていると推定されます。
債券市場のリターンは第3四半期、大幅な改善をみせました。これは、経済指標の鈍化やインフレ率の低下に加え、米連邦準備制度理事会(FRB)が予想を上回る50ベーシスポイント(bp)の利下げを実施し、いよいよ金融緩和サイクルに入ったことによるものです。しかし、当社の投資家センチメント指標は、第4四半期もこうした動きが続くとみることには慎重であるべきだと示唆しています。
当四半期におけるソブリン債への長期投資家からの資金流入は、幅広い国や商品にわたって驚くほど低調となりました(図表1)。多くの場合、四半期のフローは過去平均と大きくは異なっていなかったものの、市場リターンの高さを考えると、このような状況は債券への警戒感を示すものと言えるでしょう。また、投資適格(IG)社債、英国債、米国10年債への需要は、明らかに低調でした。こうした警戒感の意味を考えると同時に、一部の新興国および欧州市場については、その意外な強さを探ってみたいと思います。
図表1: Q3 Flows and Holdings
短期的な債券市場の動向に陰りが見える中、長期投資家のポジショニングに関する当社の幅広い指標は、より中期的な視点から、戦略的なリスクの配分状況を示しています。機関投資家のポジショニングに関する当社の月次指標によると、ポートフォリオにおける株式への配分比率は債券への配分比率を、依然として25%超上回っています(図表2)。この差は過去25年の平均である20%よりも5%大きく、1990年代後半や2000年代半ばには、さらに差が拡大する局面もありました。しかし、ここで注目したいのは、過去25年における3回の金融緩和サイクルでは、いずれも株式比率と債券比率の差が縮小している点です。
長期ポートフォリオの構築に関する当社の分析も、そうした傾向を裏付けています。株式と債券の実際の相関は1970年代以降、インフレレジームに大きく依存していたことが、分析によって明らかになりました。具体的には、高インフレレジームでは株式と債券が正の相関になることが多い一方、低インフレレジームではそうではないということです。当然、FRBが緩和サイクルに入るのは低インフレレジームの局面であり、したがって、株式と債券の分散効果は復活すると考えるべきでしょう。つまり、今年は何度かみられた「あらゆる資産の上昇」が、今後も続くとは限らないということです。
図表2:長期投資家の資産配分における株式比率と債券比率の差
当社の資金フロー指標は、10四半期ぶりに新興国市場(EM)ソブリン債への長期投資家の需要が、相対的に米国債への需要を上回ったことを示しています。これは、より幅広いリスク志向の高まりを表しているとともに、米大統領選を前に米国資産のリスクを削減しておきたいという投資家の意向を映しているように見られます。
第3四半期は米国債のリターンが好調となりましたが、市場には多少の動揺もありました。景気後退への懸念が高まり、市場では一時、政策決定会合の間の緊急緩和の可能性もささやかれました。それが実現することはありませんでしたが、それでもFRBによる50bpsの利下げは、多くのエコノミストを中心に、市場へのサプライズとなりました。そうした中、インフレ指標が安定的に推移した一方(詳細はPriceStatsをご参照ください)、労働市場のデータは不安定で、改定も多くみられました。このような背景に11月上旬までは選挙リスクも加わることから、長期投資家は、米国のデュレーションを抑制するという選択をしています。第3四半期の資金フローは年限に関わらず全体的に低調でしたが、特に長期投資家による保有が多い年限でそうした傾向が強まりました(図表3)。このような動きは、今後のイベントリスクや経済指標に関するリスク、さらには緩和サイクルの開始に伴うイールドカーブのスティープ化を考慮した、投資家のポジション調整を分かりやすく反映しているものと思われます。
米国債については、長期投資家以外からの需要が比較的乏しく、長期投資家の動向が2025年は重要な注目点となるでしょう。米国財務省の資金調達ニーズが大きく高まる中、長期運用を行う資産運用会社からの需要が、米国債にとっては不可欠です。
図表3:米国債リスクの削減
当社の資金フロー指標は、EMソブリン債への長期投資家の相対的な需要が、10四半期ぶりに米国債への需要を上回ったことを示しています(図表4)。ここから分かるのは、投資家のポジションは縮小しているだけではないということです。投資家はしばらくの間、長期の米国債をオーバーウェイトし、EMソブリン債をアンダーウェイトしてきましたが、幅広い債券市場において、リスク志向が変化している可能性があります。
FRBによる金融緩和サイクルの開始は、現地通貨建てEM債券市場の下支えとなる可能性があり、特に緩和が米ドルの下落につながるようであれば、新興国の中央銀行にもさらなる利下げの余地が生まれます。PriceStatsのセクションで説明するように、新興国市場のインフレが落ち着きをみせれば、中央銀行による利下げが後押しされる可能性があります。また、投資家行動に関する当社の指標によると、長期投資家は新興国市場をアンダーウェイトしているものの、ファンダメンタルズの改善の可能性を受けてリスクの再評価を行っています。第3四半期の資金フローは、50パーセンタイルをかろうじて上回る、比較的緩やかな回復にとどまりました。しかし、そうしたセンチメントは9月に大きく変化し、FRBによる金融緩和以降、資金流入は80パーセンタイルまで上昇しています。
最後に、中国当局が9月末に追加の景気刺激策を発表したことも、金融市場では好意的に受け止められました。これにより、世界経済の急減速は避けられるかもしれず、EM債券投資の再拡大に向け、基礎的な条件がさらに整う可能性があります。