Skip to main content
インサイト

2024年米国大統領選プレビュー

2024年が始まり、米国では選挙イヤーがスタートしました。本シリーズでは今後数ヶ月にわたり、選挙のさまざまな側面と、それらが金融市場に及ぼす影響について検討していきます。第1回目となる今回は、大統領選挙をより大きな背景で捉え、11月の選挙当日に向けて注目すべきポイントを明らかにします。

Head of Macro Policy Research

2024年選挙をめぐるマクロ経済的背景

最近までマクロ経済状況は、選挙結果を占う上で有力な材料とされてきました。まずはそこから始めようと思います。選挙サイクルの現時点において、マクロ経済状況は、世論調査が示唆する以上にバイデン大統領に有利となっています。ほとんどのマクロ経済指標は1960年代までしか遡ることはできませんが、選挙結果と最も相関の高い指標を見直すと、全米レベルでも、また州(特に激戦州)レベルでも、非常に複雑な状況が見えてきます。

とりわけ、こうした経済指標のほとんどは、経済的な充足度を実質ベースで測定するため、2021年から2023年にかけての高インフレは、それぞれのデータポイントにマイナスの影響を与えてきました。しかし、ディスインフレが定着したことで、これらのデータポイントは改善しており、通常、選挙イヤー上半期のデータは、選挙結果に対して高い予測能力を持ちます(図表1)。

図表 1: 現時点で、ほとんどのマクロ指標は現職大統領に有利

現時点で、ほとんどのマクロ指標は現職大統領に有利

経済がすべてではない

上記のデータのうち、大統領支持率は世界で最も長い歴史を持つスタンダードな世論調査の1つであり、米国の世論を測る数値として信頼できる指標と言えます。最近の世論調査によれば、バイデン氏の支持率は再選を果たしたすべての現職大統領と比べて最も低く、またトランプ前大統領の第1次政権の同じ時点の支持率よりも低くなっています。

全米レベルであれ、州レベルであれ、有権者の行動と投票率を左右するのは、いつでも特殊な問題です。2020年選挙の正当性について共和党が繰り返し行っている批判は、一部の有権者、特に無党派層の有権者に懸念を抱かせています。また、2022年の中間選挙で投票率が上昇した背景には、同年6月に最高裁が州政府による中絶禁止を認めるという画期的な判決を下したことが影響していると思われます。

2022~2023年に行われた選挙では、大統領支持率が低迷しているにもかかわらず、民主党候補者が圧勝しています。実際に、2022年の中間選挙では、民主党は全体として負けはしたものの、支持率から予想された結果に対しては過去最大の上振れとなりました(図表2)。

図表2: バイデン大統領の不人気にもかかわらず、民主党候補者が健闘

現時点で、ほとんどのマクロ指標は現職大統領に有利

歴史的背景から見た米国の選挙

現在の政治情勢に鑑み、連邦選挙は全体的に波乱が予想されます。二極化が進み、勢力が拮抗している社会では、ますます小規模化する有権者グループが特定の利害を行使するため、権力のシフトが頻繁に起こりやすくなります。この傾向は20世紀半ばから見られるようになったものです。

例えば、冷戦時代の米国の政治体制は極めて安定しており、大統領の所属政党が変わる以外に政権交代が起こることはほとんどありませんでした。この傾向は1990年代には低下傾向にあり、近年は史上最低水準まで低下しています。いまでは、どの政党が議会またはホワイトハウスの支配権を握るかはコイントスで決まると言っても過言でないほど、確率は五分五分となっています(図表3)。

図表 3: ある政党が政治的主導権を維持する確率は五分五分

ある政党が政治的主導権を維持する確率は五分五分

要するに、過去10年間は20世紀初頭以降で初めて、2年ごとに何らかの変化が起きています。2024年の選挙で共和党が上院の過半数を奪還する可能性が高いことから、このパターンは今後も続くとみられます(図表4)。

図表 4: 過去100年間の歴史において、直近10年間は政局が最も流動的

過去100年間の歴史において、直近10年間は政局が最も流動的

米国大統領選は、かつてないほどの世界的影響をもたらす可能性がある

マクロ経済や地政学的環境が今よりも安定的で強固であれば、政局の不安定さが高まるくらいでは金融市場にとってそれほど問題にはならないでしょう。

2024年に選出される政権は、大規模な局地的軍事衝突、現在進行中の貿易摩擦、国家安全保障上の懸念、破壊的イノベーションといった諸問題に直面する世界を引き継ぐことになります。政治的二極化が進めば、政策結果に大きな影響が及び、政権交代が頻繁に起こるだけでなく、政策が大きく揺れ動くことになります。米国の選挙は元々、マクロ経済や金融市場に影響を与える傾向がありますが、金融市場が今回の米国の選挙にこれまで以上に敏感になっているのはそのためです。

この点において、米国の同盟体制の信頼性に影響を与えることを考えると、外交政策は通常以上に金融市場との関連性が大きくなると思われます。トランプ氏がホワイトハウスに復帰すれば、欧州や他の同盟国にとって財政コストや安全保障コストが上昇することになります。さらに、米国の財政政策の方向性自体も、選挙の争点となっています。ただし、これは議会と大統領職における勢力分布に左右されます。2017年以降の財政赤字の拡大の大半は、ワシントンで一党支配が続いていた期間や、パンデミックが深刻化した期間中に起こっています。

それ以来、現在の政治体制は予算をめぐる戦いを繰り返しており、財政再建の道筋は緩やかなものに落ち着くとみられます。しかし、選挙後の大統領府と議会の構成によっては、財政拡大が再び議題に上る可能性もあります。

最後に、昨今の政権は立法プロセスを迂回するため、あるいは主要な政策綱領を推し進めるために、これまで以上に行政権を活用し、規則制定を積極的に行っています。こうした大統領令は、政治的あるいは法的に厳しい異議申立てを受けるかもしれませんが、一方で政府全体の政策立案の特性と質に、大きな影響を与える可能性もあります。これは、米連邦準備制度理事会(FRB)のガバナンス、ひいては米国の経済政策立案の核心にも適用される可能性があります。

図表5: 今回の選挙イヤーで注目のサプライズ

共和党予備選挙の序盤、特にニューハンプシャー州で世間を驚かせる番狂わせが起こる
第3党の候補者が浮上し、最終候補者として残る
健康上(両党とも史上最高齢の候補者)、風評上、法律上の問題など、大統領候補者が外的ショックに直面する
副大統領候補者の選定、早期の支持獲得、党の結束/分断
地政学的またはマクロ経済的ショックが有権者の心理を揺さぶる
主要な激戦州6州(アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ペンシルベニア、ウィスコンシン)における政治およびマクロ経済データ

出所:ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ

投資への影響

選挙イヤーにおいて最も直接的な影響は、共和党が過半数を握る下院と民主党大統領との間の予算編成プロセスにあり、2024年を通じて財政政策はわずかに引き締められる見通しです。FRBは春にも利下げを開始するとみられ、その主因はディスインフレですが、選挙動向も影響すると予想されます。それにより、昨年に比べて若干のドル安も予想されます。

米国株式に関しては、大統領選挙イヤーの平均リターンは6.8%であり、1948年以降の全体平均の8.8%を下回ります。これは、2023年終盤の上昇相場で多くの上昇が既に前倒しで実現され、また2024年の経済成長率は若干の減速が予想されることから、2024年の市場リターンとして妥当な数字となります。

結論として、今回の選挙シーズンは展開が読めず、金融市場は選挙の前後において波乱含みの動きとなる可能性があります。

More on Geopolitics