なぜ投資家は「不安の壁」を登り続けなければならないのか?
「心配は往々にして些細なことを大きな影のように映し出す」。
投資家は一つ一つ煉瓦を積み重ね、そびえ立つ「不安の壁」を築きつつあります。トランプ政権の動き、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の進展、根強いインフレ、DeepSeekをめぐる議論、米国経済の成長不安などを背景に、投資家の不安がここ数週間で高まっています。
重要な点として、本稿はトランプ政権の政策を支持するものでも批判するものでもないということです。狙いは、非政治的な視点から第2次トランプ政権の初期段階における経済と資本市場の反応を評価することにあります。
投資家には信じ難いことかもしれませんが、市場のボラティリティにはトランプ氏が最近打ち出した行政措置に対する反応以上の意味合いがあります。トランプ政権の政策は基本的に矛盾しています。成長とインフレを押し上げるものもあれば抑制するものもあり、その規模、時期、影響は極めて不透明です。多くの投資家は大統領の成長重視の政策を支持していますが、現政権の乱暴な政策決定手法は不安材料です。
S&P500指数は今年に入り史上最高値を3回更新し、クレジットスプレッドは極めてタイトな水準にあり、市場のボラティリティ指標は落ち着いているにもかかわらず、ニュース報道、顧客との対話、市場のセンチメントには不安感が目立ちます。米個人投資家協会(AAII)が2月26日に公表した投資家センチメント調査によると、今後6カ月間の株式市場について「弱気」と回答した投資家の割合は60%強と、前週から20ポイント上昇しました。
この動きは、昨年12月初旬に見られた「高揚感」に近い水準からの健全な調整と言えます。
大統領選から就任式までの典型的な上昇相場の後、新政権が打ち出す政策に対して投資家の懐疑的な見方が浮上するのはよくあることです。そうした懸念はオバマ政権、2017年の第1次トランプ政権、バイデン政権の初期段階にも見られましたが、いずれの場合もS&P500指数は政権1年目に堅調なリターンを上げました。ストラテガス・リサーチ・パートナーズによれば、4年間の大統領任期の1年目にS&P500指数がプラスリターンを記録したのは、10回のうち9回に上りました。過去20年間では、4年間のうち1年目の平均パフォーマンスが最も高くなっています。
そこで、不安の大きな壁となる4つの「煉瓦」を検証し、数々のリスクにもかかわらず投資家が壁を登り続けるべきかどうかを検討してみましょう。
「米国を再び偉大に(MAGA)」というスローガンが抱える矛盾
有権者はトランプ氏を大統領に選出し、投資家は選挙後の上昇相場でトランプ氏の勝利を祝いました。では、トランプ政権が公約の政策目標を積極的に推進している今、なぜ投資家は神経質になっているのでしょうか。
第2次トランプ政権が始動してわずか6週間のうちに、投資家は膨大な数の行政措置、訴訟、関税策の発表、移民政策の強化、政府効率化省(DOGE)の動き、そして急速に変化する新たな世界秩序などを消化することを求められています。
こうした事態は、政府機関が閉鎖される可能性が3月14日に迫る中で進展しています。これは膨大な数です。当然のことながら、投資家は不安を抱き、極めて流動的な環境の中でリスクとリターンに対する影響をリアルタイムで見極めようとしています。
これまでにトランプ大統領は108件の行政措置(73件の大統領令、23件の宣言、12件の覚書)に署名しました。トランプ大統領が就任後10日間で署名した大統領令の件数は、近年の歴代大統領が就任後100日間で署名した数を上回ります。トランプ氏の大統領令や連邦政府再編の動きに対して90件を上回る訴訟が起こされています。数があまりにも多いため、投資家は行政措置や訴訟が経済に及ぼす影響を判断するのが困難な状況です。
自ら「関税男」と名乗るトランプ大統領が打ち出した貿易政策は、その最たる例です。メキシコとカナダに対する関税は30日の延期を経て3月4日に発動される予定で、中国に対する現状10%の関税率は2倍に引き上げられる予定です。2月13日には、貿易赤字が招く経済上・国家安全保障上の脅威を理由に、互恵貿易および関税策の包括的計画の策定に関する大統領覚書を発表しました。鉄鋼、アルミニウム、銅、自動車、半導体、医薬品が関税の対象となる予定です。関税の対象となる品目と国は日ごとに増えています。
トランプ政権は関税を貿易不均衡の是正、連邦予算の歳入増加、移民対策の強化といった政策目標を遂行するための手段とみなしています。しかし、予測不可能な関税は消費者のインフレ予想を押し上げ、企業に課題をもたらしています。
市場参加者も次の段階の移民政策が及ぼす影響を注視するとみられます。先般、国境警備隊のマイク・バンクス隊長はCBSニュースに対して、米南部国境での不法越境者数が前年同期比で94%減少したと述べました。同氏はトランプ大統領が打ち出した多くの行政措置によって不法移民が大幅に減少したと高く評価しました。不法移民を厳しく取り締まり、犯罪者を逮捕することは良い政策ですが、選挙遊説中に脅しに使われていた(不法移民の)大量強制送還という最悪の懸念とは大きく異なります。
米国に流入する合法的な永住権保持者は2017年以降、パンデミック時の当然とも言える落ち込みを除けば、年間平均で100万人程度と、驚くほど安定的に推移しています。合法的移民は米国経済にとってプラス材料です。
一方、億万長者のイーロン・マスク氏が率いる政府効率化省(DOGE)は、 教育省を含む複数の省の廃止、無駄な支出の排除、政府職員の削減、および不正行為の摘発に乗り出し、連邦政府に大混乱を引き起こしています。DOGEの政策目標を支持する投資家でさえ、劇場型の政策措置が混乱を招き、動揺を引き起こすと感じるかもしれません。また、DOGEの活動によって意図しない結果や政策ミスにつながるリスクが高まることを看過できなくなるかもしれません。
投資家はトランプ大統領が打ち出す新たな世界秩序にも神経を尖らせています。トランプ、ゼレンスキー両大統領の会談は決裂し、トランプ大統領はNATO同盟国とウクライナ抜きで戦争終結に向けた協議を行い、ロシアの戦争責任を追求する国連決議に対してロシア、北朝鮮、イラン、中国を含むロシア友好国と共に反対票を投じました。また、ガザを掌握して中東のリビエラにするとの奇妙な発言を繰り出し、さらにはパナマ運河の運営権を奪還し、グリーンランドを取得、そしてカナダを51番目の州にするなどと牽制しています。こうした地政学的に狂気の沙汰とも言える言動への対処法はあるかもしれませんが、投資家にとって現政権の行き着く先を読み解くのは難しいことかもしれません。
予測不可能なトランプ大統領の行動をより予測可能なものにするため、第1次トランプ政権の発足から15カ月後の2018年4月に、3つのパートで構成される枠組みを投資家のために策定しました。現在、政権をめぐる問題の重要性は以前よりも増しているかもしれませんが、それでもこの枠組みは第2次トランプ政権にも適用できます。
一点目として、投資家の手元にはトランプ氏の選挙公約リストがあります。トランプ大統領は選挙公約を一つ残らず達成しようとするでしょう。「米国を再び偉大に(MAGA)」というスローガンの支持者らは、「掲げられた公約は守られる」という信念に誇りを抱いています。投資家は選挙公約に賛成するか反対するかにかかわらず、少なくとも政権から期待できることは承知しています。
二点目として、トランプ氏が1987年に出版し、彼が最も誇りとする業績の一つである、『The Art of the Deal』(邦訳:トランプ自伝 アメリカを変える男)で紹介された交渉戦術を理解することは、投資家にとって有益かもしれません。トランプ氏は成功する交渉について次のようにまとめています。「私の取引スタイルは極めてシンプルで単刀直入だ。きわめて高い目標を掲げ、それを達成するまでひたすら押して、押して、押しまくる」。トランプ氏は交渉プロセスで、普通は口にしないような誇張表現を大胆に使うことも厭わないと豪語しています。
三点目として、トランプ氏の秩序なき混沌としたリーダーシップスタイルは、自らがホストするリアリティTV番組「アプレンティス」で披露した当時から変わっていません。トランプ大統領とマスク氏は、混乱する中でも物事をうまく進めていきます。二人ともそれを強く望んでいるのです。投資家は、大統領のリーダーシップスタイルが第2次政権も引き続くと予想するべきです。大統領のスタイルに不安を抱く投資家のために言えば、政策の執行はペースダウンするでしょう。そうならないわけがありません。
投資家は、第1次トランプ政権時に独特のリーダーシップスタイルに適応する方法を見つけ、リスク資産は好調に推移しました。現時点で投資家にとって最適なアドバイスは、トランプ政権が発表したことではなく、行動を注視せよということかもしれません。
無論、トランプ政権は高まる投資家の不安の壁を構成する一つの煉瓦にすぎません。
FRBのインフレ問題
2月12日に発表された1月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比3%上昇と、1年半ぶりの高い伸びを記録しました。インフレ指標が予想を上回ったことから上昇傾向が継続し、1月29日のFRBによる金利据え置き決定を裏付ける形となりました。根強いインフレ指標を背景に、直近の調査では、消費者のインフレ予想の上昇幅が警戒すべき水準に達しています。幅広い商品・サービス価格の上昇がトランプ政権の政策がもたらす潜在的なインフレ圧力と相まって、インフレ期待の上昇につながっています。
昨年12月にFRB高官はインフレ指標の上昇を理由に今年の利下げ回数が減少するとの見通しを示しました。現在、物価が上昇し続け、インフレ期待が高まり、政府の将来の政策が物価上昇につながりかねないとの懸念がくすぶる中、FRB高官は利下げ再開を急がない意向を示しています。市場参加者が織り込む今年の利下げ回数は2回を下回り、投資家は不安を感じています。
ただし、1月のCPIデータは予想を上回ることが多いことで知られています。処方箋薬価の記録的な高騰や自動車保険料の引き上げに示されるように、企業が年初に値上げすることはよくあります。エコノミストは年初のインフレ指標を押し上げる季節調整要因も指摘しています。
2月28日、FRBが重視するインフレ指標である、物価とエネルギーを除くコア個人消費支出(PCE)物価指数が前年同月比2.6%上昇し、12月の2.9%上昇から鈍化しました。前年同月比での上昇鈍化を踏まえると、インフレ率は今後改善する可能性が高いと思われます。
2024年初めの時点で、市場参加者は年内にFRBが6回以上の利下げを実施すると予想していました。ところが実際の利下げ回数は投資家の予想を大きく下回っただけでなく、時期も大幅に後ずれしました。しかし、そうした中でも経済は拡大し、業績も堅調に伸びたため、株式市場は2024年も堅調な動きを見せました。今年、FRBが利下げを実施するかどうかは不明ですが、経済が拡大し、業績が伸び、労働市場が底堅く推移すれば、株式市場が3年連続で上昇するのに十分な環境が整うはずです。
2018年の金融引き締めサイクルの最終時点で、FRBは関税がインフレを押し上げるとの誤った予想を立てましたが、そうはなりませんでした。その結果、FRBは2019年に積極的な利下げを余儀なくされました。投資家は、政府の将来の政策がインフレに与える影響について、FRBが発言通りに実行し、推測や憶測、仮定に基づかないことを望むべきでしょう。
年後半にインフレが沈静化し、景気が減速すれば、FRBには年内に少なくとも2回の利下げ(おそらくはそれ以上)を実施するのに十分な余地がもたらされるはずです。
AIの「スプートニク・モーメント」と覇権争い
1月27日、中国発の低コストの人工知能(AI)モデルの出現により、オープンAIなど米国のAI有力企業の支配が脅かされかねないとの見方が浮上し、ハイテク株は急落しました。中国のスタートアップ企業DeepSeekが無料のAIアシスタントを発表したのです。同社は少ないデータを利用して既存モデルに比べて格段に低いコストで開発したと主張しています。アップルのアプリにおけるDeepSeekのAIアシスタントのダウンロード数は、1月末までに競合するChatGPTのダウンロード数を上回りました。
著名なシリコンバレーのベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセン氏はX(旧Twitter)で、旧ソビエト連邦の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げ成功が1950年代後半の宇宙開発競争の幕開けとなったことを引き合いに出し、DeepSeekのモデル発表がAIの「スプートニク・モーメント(他国に先を越される瞬間)」に相当すると発言しました。
投資家がAIの将来性を有望視したことで、ハイテク株は過去2年間で急騰し、バリュエーションは押し上げられ、市場が過去最高値を更新するのに一役買いました。しかし、DeepSeekが格段に低いコストと少ないエネルギー消費でより良いAIモデルを開発したのであれば、これまで市場を押し上げてきたAIストーリーは崩壊するでしょう。その結果、高額の半導体チップの需要は落ち込み、モデル開発のために発電設備を大量に建設する必要性は薄れ、必要とされる大型データセンターの数は減少する可能性があります。
2月24日、AIハイパースケーラーのマイクロソフトが米国のデータセンターのリース契約を一部解約したとのニュースも、有望視されていたAIのバブルがついに弾けたのではとの不安に拍車をかけました。DeepSeekの発表から1カ月以上が経過した今、米国AI関連株はAI覇権争いの幕開けから完全に回復するに至っていません。
一方、DeepSeekが低コストでモデルを開発したとの主張には疑問が生じています。広く報じられているモデル作成費用の600万ドルという数字は、アーキテクチャ、アルゴリズム、データに関する先行研究とアブレーション実験(機械学習の予測モデルにおいて、構成要素の一部を切り除いてそれがモデルの性能にどのような影響を与えるかを調べる実験)に関連する費用が除外されています。率直に言えば、推定コストにはモデルのアーキテクチャ、アルゴリズム、データ取得、画像処理装置(GPU)およびテスト運用のための研究開発費が省かれているのです。DeepSeek開発に要した総コストは、発表された数値をはるかに上回っている可能性があります。
AIハイパースケーラーや巨大ハイテク企業はDeepSeekの出現に怯んではいません。アマゾン、マイクロソフト、アルファベット、メタのプラットフォームは過去12カ月間でAI設備投資に2,300億ドルを投じました。今年、この4社はAIとデータセンターに3,200億ドルを投じると予想されます。DeepSeekが引き起こしたAIをめぐる混乱にもかかわらず、大手ハイテク企業は新たな先進モデルと次世代技術の開発に向けてAIインフラへの支出を継続する計画を改めて確認しています。
あくまでも仮定の話ですが、DeepSeekのようなオープンソースの大言語モデルがより高い有効性を備え、エネルギーへの影響も少なく、格段に低いコストで開発できるとすれば、ハイテク株と経済に広く恩恵をもたらし、AIの有望性は維持されるでしょう。モデルの効率性が改善すれば、新たな利用方法は一段と経済的になり、発見されるペースも加速するため、AI消費は増えるとみられます。
AI導入の拡大によって生産性が向上すれば、不安の壁を構成する最後の煉瓦 ― すなわち経済成長不安 ― が本格的な景気後退に発展するのを防げるかもしれません。
成長不安が焦点に、景気後退は待機中?
トランプ政権の政策の不透明性、FRBの利下げ回数減少の可能性、物価上昇の継続、およびAIへの疑問の高まりを背景に、投資家は既に神経を尖らせていますが、足元では米国経済の減速という脅威に直面しています。
昨年は実質経済成長率が3%に達した四半期が何回かありましたが、ここに来て景気は減速しつつあります。2月最後の2週間に発表された経済指標が軟化したことで、投資家はパニックに陥りました。米商務省が発表した1月の小売売上高は前月比0.9%減となりました。ウォルマートの第4四半期(2024年11月~2025年1月期)の利益と売上高は予想を上回ったものの、同社は今年の利益の伸びが鈍化するとの見通しを発表しました。同社の業績は個人消費の動向を示す優れた指標です。
ミシガン大学の消費者景況感指数とコンファレンスボードの消費者信頼感指数は2月に急落しました。経済分析局(BEA)の発表によると、1月の個人消費支出(PCE)は前月比0.2%減となりました2。最近では住宅に関するデータが特に落ち込んでいます。たとえば、中古住宅販売成約指数は12月から4.6%低下して、全米不動産協会(NAR)が2001年にデータ追跡を開始して以来の低水準に沈みました。3
S&P500が発表した2月のグローバル米国サービス業PMIは49.7と、1月の52.9から低下し、予想を大幅に下回りました。サービス業PMIは2年ぶりに低下したことになります4。こうした悪材料が続く中、新規失業保険申請件数は当然のことながら増加しています。(2月22日までの1週間の)新規失業保険申請件数は前週比2万2,000件増の24万2,000件と、予想の22万5,000件を上回り、年初来の最高水準に達しました5。
経済成長不安は景気後退とは異なります。経済環境は依然として良好で、米国の実質GDPは1~3月期に拡大する見通しです。新規失業保険申請件数は増加したものの、引き続き労働市場の底堅さがうかがえます。タイトなクレジットスプレッドは貸出市場に対する信頼感を示しています。S&P500構成企業は堅調な10~12月期決算発表を終え、今年は+12%の大幅増益が予想されます6。1月の耐久財受注は3.1%増と予想外の伸びとなりました。
2月のS&Pグローバル米国製造業PMIは1月の51.2から51.6に上昇し、市場予想を上回りました。これは2024年6月以来の高水準で、製造業の回復が続いていることがうかがえます7。ニューヨーク連銀とフィラデルフィア連銀が2月に実施した調査は予想を上回り、さらなる景気拡大の兆候を示しています。
投資家は経済成長不安に警戒する必要があります。新規失業保険申請件数、クレジットスプレッド、個人消費および企業収益の今後の行方が、成長不安が景気後退のような事態の悪化につながるかどうかを決定づける要因になるでしょう。ただし、足元の経済指標は、景気は鈍化しているものの年内に景気後退に向かう可能性は低いとの見方を裏付けています。
懐疑的な見方:市場と投資家にとって好材料
株式市場が2年連続で並み外れたパフォーマンスを上げ、大統領選後に株価が上昇したことを受けて、投資家が懐疑的な見方を取っているのは健全で当然のことと言えます。割高なバリュエーション、タイトなクレジットスプレッド、穏やかな市場ボラティリティ指標を踏まえると、投資家は成熟しつつある強気市場を混乱させる可能性のあるリスクを特定し、評価することが肝要です。
1月20日のトランプ大統領の就任式以降、投資家が大きな不安の壁を積み上げるための煉瓦が手元に増え続けています。トランプ政権が矢継ぎ早に打ち出す猛烈な政策は予期せぬ結果を招く可能性があり、政策ミスを犯すリスクは高まっています。根強いインフレと弱腰のFRBからさらなるリスクが生まれています。巨額の設備投資が必要との誤った主張を根拠に、数年にわたって膨れ上がったAIバブルは、市場にとって ― とりわけ市場でもてはやされたマグニフィセント・セブンにとって― 破壊的な影響をもたらす可能性があります。強気相場に対する最大のリスクは、論理的な思考からもたらされる経済成長への不安が、望まない景気後退へと恐ろしい変貌を遂げることかもしれません。
12月初めの高揚感を忘れることは賢明と言えます。居心地は悪いかもしれませんが、投資家は不安を受け入れるべきで、健全な行為です。脆弱な企業が淘汰されることで、市場には成長余地が生まれます。市場は高揚感によって上昇するのではなく、不安の壁をよじ登るのです。
これらのリスクはいずれも、単独では強気相場の腰を折るのに十分ではありません。財政政策、金融政策、貿易政策および規制政策がすべて一体となって、景気、企業業績、インフレ、金利への影響が決定づけられます。
足元では、経済は縮小ではなく拡大しており、インフレは落ち着きを見せています。FRBは金融引き締めよりも金融緩和に動く可能性が高いとみられます。企業利益と利益率は目覚ましい伸びを見せ、ハイテク企業以外にも広がっています。労働市場は底堅く、消費者は健全な状態を維持しています。そして、良きにつけ悪しきにつけ、トランプ政権は景気と株式市場を成功のバロメーターとしています。このため、意図して景気や強気相場に悪影響を与えることはないでしょう。
足元の市場動向を踏まえると、投資家は強い警戒姿勢を維持し、シグナルとノイズを区別する必要があります。つまり、2025年は不安の壁を登り続ける必要があるというわけです。